いにしえの文 › 東国李相国集(東国の李相国の文集) › 後集 巻10
人の家で蚕を飼うのを見て作る見人家養蠶有作
東国李相国集(東国の李相国の文集) 後集 巻10 高麗の李奎報が生涯に作った文章を、子の李涵が1241年に編んで刻み、孫の李益培が1251年に改め補った文集。詩と賦、王に奉った表と箋、寺と塔に付けた記、碑銘と墓誌銘、手紙と序文、そしてモンゴルが攻め入った時に行き交った国書までが収められている。高句麗の始祖を歌った「東明王篇」が前集の巻3にあり、酒と琴と詩を友として自ら白雲居士と名のった人の一日一日が後集に残っている。書は、彼が目を病んで筆を置く最後の詩と、彼が死んだ後に他の人が作って付けた誄書・墓誌銘で閉じる。
蠶是馬之精。其喙宛相類。喫桑如食草。肥大盈箔裏。旣食又能眠。絲絮出於是。錦繡及黼黻。綃縠與羅綺。莫不由玆生。其益何多矣。大勝此耄翁。略無毫髮利。進不補帝衮。退亦眠食耳。頑然無所愧。蠶蟲之不似。以是常自言。老賊不如死。
蚕は馬の精であり その口はまさしく互いに似ている 桑を食べるのが草を食むようで 肥え大きくなって箔のなかに満ちる 食べ終わるとまた眠り 糸と綿がここから出る 錦と繍、そして黼と黻 綃と縠、そして羅と綺 これによって生じないものはなく その益はなんと多いことか この耄いた翁よりはるかに勝る 私には毛筋ほどの利もない 進んでは帝の衮の一針も補うことができず 退いてはまた眠り食べるだけだ 頑なにも恥じるところがなく 蚕の虫にも似ていない このためにいつも自ら言う 老いた賊は死ぬにまさらないと
夾注 1
補衮 — 『詩経』大雅・烝民の「衮に裂けたところがあれば仲山甫が補った」から来た言葉で、帝の足らぬところを補い助けるという意である。この篇は蚕が糸を出して衮を作る話なので、字の意を重ねた言葉遊びである。 ― 訳者