いにしえの文 › 懲毖録(過ちを懲らし後の憂いを慎む記録) › 巻15 軍門謄錄

守令と將官を戒め取り締まって送った文約束守令將官文

懲毖録(過ちを懲らし後の憂いを慎む記録) 懲毖錄 · 柳成龍(リュ・ソンリョン) · 1633年刊行(壬辰倭乱の後に著す) · 段落 22 · 漢字 1,168字 · 朗読 9.9分

懲毖録(過ちを懲らし後の憂いを慎む記録) 巻15 軍門謄錄 壬辰倭乱が終わった後、領議政の柳成龍が自らの目で見たものを記して残した記録。「過ぎたことを懲らして後の憂いを慎む」という意で名を付けた。戦争がどのように始まり、朝廷が何を見落としたかを言い逃れなく記した。李舜臣を推挙したこと、明の軍とのいざこざ、民が経た惨状がそのまま収められている。

古人云天下雖安忘戰必危况於今日乎鍊兵之爲急務雖行道之人皆知其不可已况於守土之臣當事任官之人乎然人心積成怠慢有志者少無志者多往往以此重事視之爲文具塞責之事唱而不和似無感動奮發之意尋常痛歎不得不更申敎我其各洗心惕慮悉意遵行今此鍊兵之規非欲病民只欲便民使平居則隣里相保捍禦土賊有事則同心一力以衛。國家之急如斯而已然又不可渙散無統故置哨官以統旗總旗總以統隊長隊長以統軍士欲其互相維持互相敎訓互相聽受無前日烏合土崩之患也大要守令謹擇哨官哨官謹擇旗總旗總謹擇隊長而軍士則亦必以隣里附近之人隨其見在之數團結爲隊此其但欲其無往來遠處招呼聚集之弊也蓋以旣居一里則面目相熟情志相親患難足以相救守望足以相助其與居在異地平生不相識面而一時聚合名爲隊伍者其效自不同也哨官之任極爲重大至於旗隊總之任亦爲非輕苟非其人非徒無益必有民弊自今以後守令三令五申約束哨官哨官約束旗隊總各各盡心所任之事必使愛恤所率軍人如一家之人一毫不得侵擾軍人亦視哨官如一家之長凡有敎令一一遵行無敢違越本府時時發遣防禦使巡視各官各哨能否校其軍人成才多少一邑之事則責之守令一哨之事則責之哨官能者。啓聞論賞不能者差次施罰决不輕貸今將應行事宜開坐于後

昔の人が、天下がたとえ安らかであっても戦いを忘れれば必ず危ういと言ったのだから、まして今日はどうであろうか。兵を習わせることが急な務めであることは、道を行く人でさえみなやめることができないと知っているのに、まして土地を守る臣や、事を任された官の人ならばなおさらである。しかし人の心は怠りを積み重ねて、志のある者は少なく志のない者が多く、ときおりこの重い事を、文で飾って責めを塞ぐ事と見なしている。呼んでも和さず、感じ動いて奮い起つ意がないようなので、常に痛く嘆いている。そのため、あらためて重ねて知らせないわけにはいかないので、それぞれ心を洗い、恐れをもって思い、意を尽くして従い行え。

今のこの兵を習わせる規は、民を苦しめようとするものではなく、ただ民を便宜にしようとするものである。平素には隣の里が互いに保って土賊を防ぎ守り、事があれば心を同じくし力を一つにして国の急を守らせようとするだけである。しかしまた散り散りになって統べるものがなくてはならないので、哨官を置いて旗總を率いさせ、旗總が隊長を率い、隊長が軍士を率いるようにして、互いに支え、互いに教え、互いに受け入れて、先日の烏の群れのように集まって土のように崩れた憂いがないようにしようとするのである。

大きな要めは、守令が哨官を慎んで選び、哨官が旗總を慎んで選び、旗總が隊長を慎んで選ぶことにある。軍士はまた必ず隣の里の近くに住む人で、その時ある数に従って束ねて隊を作る。これはただ遠い所を行き来して呼び集める弊がないようにしようとするものである。おおむね、すでに一つの里に住んでいれば顔が互いに馴染み、心が互いに親しんで、患難に互いに救うに足り、守り見張るのに互いに助けるに足る。それは別の地に住んで一生互いに顔も知らずにいて、一時に集まって隊伍と名づけるものとは、その効き目が自ずと同じでない。

哨官の任はきわめて重大で、旗總・隊總の任に至ってもまた軽くないので、まことにその人でなければ、ただ益がないばかりでなく、必ず民の弊害があるであろう。今より後、守令は三度令を下し五度重ねて哨官を取り締まり、哨官は旗總・隊總を取り締まって、それぞれ任された事に心を尽くせ。必ず率いる軍人を一家の人のように愛しみ恵み、毛筋ほども侵すことのないようにし、軍人もまた哨官を見ることを一家の長のようにして、およそ教え令を下すことがあれば一つ一つ従い行い、敢えて違い越えるな。

本府は時々防禦使を遣わして、各邑各哨の能否をめぐり見、その軍人の才を成した数の多少を比べさせるであろう。一つの邑の事は守令に責めを問い、一つの哨の事は哨官に責めを問うて、能い者は上に申し上げて賞を論じ、能わない者は等級を分けて罰を施し、決して軽くは許さない。今、まさに行うべき事どもを後に並べ記す。

夾注 1

丙申正月三日

丙申年正月三日

一京畿道內各官軍士已分京前京後京左京右爲四營一營統五司一司總五哨一司之中亦以東西南北中央分爲五哨名爲左哨右哨前哨後

一、京畿道内の各邑の軍士を、すでに京前・京後・京左・京右に分けて四つの營とした。一つの營が五つの司を率い、一つの司が五つの哨を率い、一つの司の中でもまた東・西・南・北・中央に分けて五つの哨とし、左哨・右哨・前哨・後哨・中哨と名づける。

哨中哨務在量其道里之遠近居民之疎密往來便宜使整整齊齊如綱

努めるべきところは、道のりの遠近と住む民の疎密、行き来に便宜かどうかを計って、整い整えることにあるのだから、

目之相維而不相紊此軍政大段而於事亦無難行者更加詳審着實施

綱と目が互いに繋がって乱れないのと同じようにせよ。これは軍政の大きな筋であり、事としてもまた行いがたいものではないので、あらためてさらに詳しく調べ、着実に

行

施行せよ。

一今日亂離之餘各村民居稀闊或數里而一家或十里而一村團聚收合以爲一哨鍊兵之際若使之逐日來聚於一處則必有往來煩擾之弊民

一、今日、乱離を経た余りに各村の民の住む所が稀で広く、あるいは数里に一家、あるいは十里に一村である。これを束ね収め合わせて一つの哨とするので、兵を習わせる際、もし日ごとに一か所へ来て集まらせれば、必ず行き来の煩わしく騒がしい弊があって、民の

情恐亦不便平時則使隊總旗總知委各於其所居或習射或習用槍疾

心にもまた便宜でないのではないかと恐れる。平時には隊總と旗總に知らせて、それぞれその住む所で射を習い、あるいは槍の使い方や疾く

走等事哨官則於所統三旗內巡環試才農隙則稍數農時則稍疎數則

走ることなどを習わせ、哨官は率いる三つの旗の内をめぐって才を試みるが、農の合間には少し頻繁に、農の季節には少し疎らにする。頻繁にする時は

每初五日內試一哨之軍書其中數次五日試二旗之軍書其中數如右

初めの五日の内に一つの哨の軍を試みてその当てた数を書き、次の五日に二つの旗の軍を試みてその当てた数を書くことを右のようにし、

又次五日畢試三旗之軍每十五日而一試則一月再試疏則每初旬試

またその次の五日に三つの旗の軍をすべて試みる。十五日ごとに一度試みれば、一月に二度試みることになる。疎らにする時は、初旬ごとに

一旗之軍再旬試二旗三旬試三旗一月一試極農五六月則停止使之

一つの旗の軍を試み、中旬に二つの旗を試み、下旬に三つの旗を試みるので、一月に一度試みることになる。農の盛りの五月六月には止めて

專力於農務守令亦一月一次或二月一次合試境內諸哨之軍校其成

農務に力を専らにさせる。守令もまた一月に一度、あるいは二月に一度、境内の諸々の哨の軍を合わせて試み、その成した

才多少申報幕中以行賞罰

才の多少を幕中に報せて、賞と罰を行う。

一近日他道之軍則分屬各處有巡察使軍兵水使軍防禦使軍巡邊使軍助防將軍守令之軍各自爭占軍政大擾調發之際文移夾馳眩於奉行

一、近ごろほかの道の軍は諸所に分かれて属し、巡察使の軍があり、兵使と水使の軍があり、防禦使の軍があり、巡邊使の軍があり、助防將の軍があり、守令の軍があって、それぞれ争って占めるので、軍政が大いに乱れる。軍を徴し発する際、公文が入り混じって馳せ、奉じ行うのに惑って

不知適從此是今日極弊故今則一邑之軍盡屬於守令有事調發守令

どれに従うべきか分からないので、これが今日の極まった弊である。そのため今は一つの邑の軍をすべて守令に属させ、事があって徴し発する時には守令が

各率其軍來聽大將之令惟其所用此最爲簡要若軍不齊一或敎鍊怠

それぞれその軍を率いて来て大將の令を聞き、ただその用いるところに従うようにしたので、これが最も簡単で要めである。もし軍が揃わず、あるいは教え習わせることを怠れ

慢則其責不歸於他人而歸於守令各各盡心施行

ば、その責めは他人に帰さず守令に帰するのだから、それぞれ心を尽くして施行せよ。

一我國不閑陣法今此團聚民兵若無敎訓之人則如盲者之不識道路極爲可慮近日唐敎師分敎各道之弊甚矣本道則唐敎師下去事已極力

一、我が国は陣法に慣れていないので、今この民の兵を束ね集めておいて、もし教える人がなければ、盲いた者が道を知らないのと同じで、きわめて憂慮される。近ごろ明の教師が各道に分かれて教える弊が甚だしい。本道は明の教師が下って行く事をすでに力を尽くして

防塞知委民間使勿驚擾龍津別將許售往在忠淸道安興梁時善於敎

防ぎ塞ぎ、民間に知らせて驚き騒がないようにした。龍津別將許售は、先に忠淸道の安興梁にいた時、教えることを

誨故營將兼差使之往來諸邑哨官一同敎誨軍士幷爲知委施行

よくしたので、營將を兼ねて差し任じて諸々の邑を行き来させるから、哨官が同じように軍を教えるよう、併せて知らせて施行せよ。

一農隙務閒之時防禦使持令旗出去五司之軍聚合於一處爲大習陣臨時聽傳令施行

一、農の合間で務めの閑かな時には、防禦使が令旗を持って出て、五つの司の軍を一か所に集め合わせて大きく陣を習わせるが、その時に臨んで伝える令を聞いて施行せよ。

一哨官勤於其事所率軍士無弊敎訓使軍心親附無怨苦之事成才數多則其中特異者當各別。啓聞除職預爲知悉䇿勵

一、哨官がその事に勤め、率いる軍士を弊なく教え習わせ、軍の心が親しく付き従って怨み苦しむ事がなく、才を成した数が多ければ、そのうち格別に優れた者はまさに格別に上に申し上げて職を授けるので、あらかじめすべて知って励ませ。