いにしえの文 › 竹取物語(竹取の翁の物語)

第三竹取物語 3

竹取物語(竹取の翁の物語) 竹取物語 · 作者未詳 · 9世紀末〜10世紀初めに成立 · 段落 7 · 漢字 471字 · 朗読 1.2分

竹取物語(竹取の翁の物語) 日本に残る最も古い物語。竹の中から出てきた子が育ち、五人の貴公子と帝の求婚を次々に退けて月へ帰る。五人に持ってこいと言ったものはどれも世にない品で — 天竺の石の鉢、蓬莱の玉の枝、火鼠の皮衣、龍の首の玉、燕の子安貝 — それぞれが偽り、こしらえて恥をかく。富士の山の頂から煙が立つ理由も、この物語の終わりに記されている。

「猶この女見では、世にあるまじき心ちのしければ、天竺にあるものも持てこぬものかは。」と、思ひめぐらして、石作皇子は心のしたくみある人にて、「天竺に二つとなき鉢を、百千萬里の程行きたりともいかでか取るべき。」と思ひて、かぐや姫の許には、「今日なん天竺へ石の鉢とりにまかる。」と聞かせて、三年ばかり經て、大和國十市郡にある山寺に、賓頭盧の前なる鉢のひた黑に煤つきたるをとりて、錦の袋に入れて、作花の枝につけて、かぐや姫の家にもて來て見せければ、かぐや姫あやしがりて見るに、鉢の中に文あり。ひろげて見れば、

「それでもこの女を見ないでは、世に生きている気持ちもしないのだから、天竺にある物であっても持って来られないことがあろうか。」と、あれこれ思いめぐらしましたが、石作皇子は心に策略のある人で、「天竺に二つとない鉢を、百千万里の道を行ったとしてもどうして手に入れられよう。」と思いました。そこでかぐや姫のもとへは「今日、天竺へ石の鉢を取りにまいります。」と聞かせておいて、三年ほど経ってから、大和国十市郡にある山寺で、賓頭盧(びんずる)の前にある鉢の真っ黒に煤のついたものを取り、錦の袋に入れ、造り花の枝に結びつけて、かぐや姫の家に持って来て見せました。

かぐや姫が不思議に思って見ると、鉢の中に文がありました。広げて見ますと、

海山のみちにこゝろをつくしはてみいしの鉢のなみだながれき

海と山の 道に心を尽くしきって 疲れ果てました 石の鉢を求めて 涙が流れました

かぐや姫、「光やある。」と見るに、螢ばかりのひかりだになし。

かぐや姫が「光があるか。」と見ましたが、蛍ほどの光さえありません。

おく露のひかりをだにもやどさまし小倉山にてなにもとめけむ

置く露の 光だけでも 宿していたでしょうに 暗い小倉山で 何を求めたのですか

とてかへしいだすを、鉢を門に棄てゝ、この歌のかへしをす。

と言って返して出しますと、皇子は鉢を門に捨てて、この歌の返しをしました。

しら山にあへば光のうするかとはちを棄てゝもたのまるゝかな

白山に出会って 光が消えたのでしょうか 鉢を捨てても やはり頼みにしてしまうのですね

とよみて入れたり。かぐや姫返しもせずなりぬ。耳にも聞き入れざりければ、いひ煩ひて歸りぬ。かれ鉢を棄てゝまたいひけるよりぞ、面なき事をばはぢをすつとはいひける。

と詠んで入れました。かぐや姫は返しもしなくなりました。耳にも聞き入れませんでしたので、言いかねて帰りました。あの人が鉢を捨ててもなお言い寄ったことから、厚かましいことを「恥を捨てる」と言うようになったのです。

夾注 1

鉢(はち)と恥(はじ)が同じような音であるためです。――訳者