治家 — 家を治める法治家
1風化は上から下へ、先から後へ
夫風化者,自上而行於下者也,自先而施於後者也。是以父不慈則子不孝,兄不友則弟不恭,夫不義則婦不順矣。父慈而子逆,兄友而弟傲,夫義而婦陵,則天之兇民,乃刑戮之所攝,非訓導之所移也。
風化というものは、上から下へ行われ、先から後へ施されるものである。だから父が慈しまなければ子は孝行せず、兄が睦まじくなければ弟は恭しくなく、夫が義しくなければ妻は従わない。父が慈しんでいるのに子が逆らい、兄が睦まじいのに弟が傲り、夫が義しいのに妻が侮るのは、天の生んだ凶なる民であって、刑罰で取り締まるべきものであり、教え導いて改まるものではない。
2家を治める寛さと厳しさ
笞怒廢於家,則豎子之過立見;刑罰不中,則民無所措手足。治家之寬猛,亦猶國焉。
鞭と叱りが家からなくなれば、子どもの過ちはすぐに現れ、刑罰が適切でなければ民は手足の置き所がない。家を治める寛さと厳しさも、国と同じである。
3倹しくあっても吝嗇であるな
孔子曰:「奢則不孫,儉則固;與其不孫也,寧固。」又云:「如有周公之才之美,使驕且吝,其餘不足觀也已。」然則可儉而不可吝已。儉者,省約爲禮之謂也;吝者,窮急不䘏之謂也。今有施則奢,儉則吝;如能施而不奢,儉而不吝,可矣。
孔子は「奢れば不遜になり、倹しければ頑なになる。不遜であるよりは、むしろ頑ななほうがよい」と言い、また「周公のような才の美しさがあっても、驕り吝嗇であれば、その他は見るに足りない」と言った。とすれば、倹しくあってよいが、吝嗇であってはならない。倹しさとは、省き約して礼にかなうようにすることをいい、吝嗇とは、困り急いでいる人を顧みないことをいう。今の世は、施せば奢りになり、倹しくすれば吝嗇になる。施して奢らず、倹しくして吝嗇でないようにできれば、それでよい。
4塩の井戸だけがない — 門を閉じても暮らせる家
生民之本,要當稼穡而食,桑麻以衣。蔬果之畜,園場之所產;雞豚之善,塒圈之所生。爰及棟宇器械,樵蘇脂燭,莫非種殖之物也。至能守其業者,閉門而爲生之具以足,但家無鹽井耳。今北土風俗,率能躬儉節用,以贍衣食;江南奢侈,多不逮焉。
民の暮らしの根本は、まさに耕して食べ、桑と麻で着ることである。野菜や果物を蓄えるのは畑と庭から生まれ、鶏や豚の良いものは止まり木と囲いから生まれる。家屋や器具、薪や油や蝋燭にいたるまで、植え育てるところから出ないものはない。その生業をよく守る者は、門を閉じていても暮らしの道具が足りる。ただ家に塩の井戸がないだけである。今の北の地の習いは、おおむね自ら倹しく節約して衣食を足らせているが、江南は奢っていて、それに及ばない者が多い。
5厳しすぎた家の主の末路
梁孝元世,有中書舍人,治家失度,而過嚴刻,妻妾遂共貨刺客,伺醉而殺之。
梁の孝元帝のとき、ある中書舎人が家を治める度を失って、厳しさと苛さが過ぎた。妻と妾はついに金を出し合って刺客を雇い、酔ったところを狙って彼を殺した。
6家の大きな虫食い
世間名士,但務寬仁;至於飲食饟饋,僮僕減損,施惠然諾,妻子節量,狎侮賓客,侵耗鄉黨:此亦爲家之巨蠹矣。
世間の名士は、寛さと仁にだけ努める。しかし飲食や贈り物のやりとりでは召使いが掠め取り、恵みを施し約束をするところでは妻子が削り減らし、客を馴れなれしく侮り、郷里の人の物を損なう。これもまた家の大きな虫食いである。
7米を買いに出て逃げた召使いを責めなかった房文烈
齊吏部侍郎房文烈,未嘗嗔怒,經霖雨絶糧,遣婢糴米,因爾逃竄,三四許日,方復擒之。房徐曰:「舉家無食,汝何處來?」竟無捶撻。嘗寄人宅,奴婢徹屋爲薪略盡,聞之顰蹙,卒無一言。
斉の吏部侍郎、房文烈はかつて腹を立てたことがなかった。長雨が続いて食糧が絶えたので、召使いの女を遣わして米を買わせたところ、そのまま逃げ、三、四日してやっと捕らえた。房文烈はゆっくりと「家中に食べるものがないのに、お前はどこから来たのか」と言うだけで、ついに鞭を当てなかった。人の家を借りて住んでいたとき、奴婢が家を取り壊して薪にしてほとんど使い尽くしてしまったが、それを聞いても眉をひそめるだけで、ついに一言も言わなかった。
8薄い粥を分けた裴子野、召使い八百を千にしようとした領軍、婿に酒を惜しんだ南陽の人
裴子野有疎親故屬飢寒不能自濟者,皆收養之;家素清貧,時逢水旱,二石米爲薄粥,僅得徧焉,躬自同之,常無厭色。鄴下有一領軍,貪積已甚,家童八百,誓滿一千;朝夕每人肴膳,以十五錢爲率,遇有客旅,更無以兼。後坐事伏法,籍其家產,麻鞋一屋,弊衣數庫,其餘財寶,不可勝言。南陽有人,爲生奧博,性殊儉吝,冬至後女壻謁之,乃設一銅甌酒,數臠麞肉;壻恨其單率,一舉盡之。主人愕然,俛仰命益,如此者再;退而責其女曰:「某郎好酒,故汝常貧。」及其死後,諸子争財,兄遂殺弟。
裴子野は、遠い親戚や昔の属僚のうち飢えと寒さに自分では立ち行かない者を、みな引き取って養った。家はもともと清貧で、ときに洪水や旱に遭うと、米二石で薄い粥を炊いてやっと皆に行き渡らせ、自ら同じものを食べながらも、嫌な顔を見せたことがなかった。鄴にある領軍は、貪り蓄えることが甚だしく、家の召使いが八百人もいるのに千人を満たすと誓っていた。朝夕の一人分のおかずを十五銭と決めてあり、客が来ても余分に出すものがなかった。のちに事に連座して法で処され、家の財産を没収したところ、麻の靴が一部屋、古着が蔵いくつかあり、そのほかの財宝は数え上げられないほどであった。南陽のある人は、暮らしが豊かなのに性質がことに吝嗇であった。冬至のあとに娘の婿が訪ねてくると、銅の鉢一つの酒と、ノロジカの肉を数切れ出した。婿はその粗末さを恨んで一度に食べ尽くしてしまい、主人は驚いて、しかたなく追加を命じ、それが二度に及んだ。退がってから娘を責めて「あの男は酒好きだから、お前はいつも貧しいのだ」と言った。その人が死んだあと、子たちが財産を争って、兄がついに弟を殺した。
9雌鶏が朝に鳴けば
婦主中饋,惟事酒食衣服之禮耳,國不可使預政,家不可使幹蠱;如有聰明才智,識達古今,正當輔佐君子,助其不足,必無牝雞晨鳴,以致禍也。
妻は家の内の食事をつかさどり、ただ酒食と衣服の礼を務めるだけである。国では政に関わらせてはならず、家では大事を取り仕切らせてはならない。聡明で才知があり古今に通じていたとしても、まさしく夫を助けてその足りないところを補うべきであり、雌鶏が朝に鳴いて禍を招くようなことは決してあってはならない。
10江東の女と鄴の女
江東婦女,略無交遊,其婚姻之家,或十數年間,未相識者,惟以信命贈遺,致殷勤焉。鄴下風俗,專以婦持門戶,争訟曲直,造請逢迎,車乘填街衢,綺羅盈府寺,代子求官,爲夫訴屈。此乃恆、代之遺風乎?南間貧素,皆事外飾,車乘衣服,必貴整齊;家人妻子,不免飢寒。河北人事,多由內政,綺羅金翠,不可廢闕,羸馬顇奴,僅充而已;倡和之禮,或爾汝之。
江東の女たちはほとんど外の付き合いがなく、縁を結んだ家同士でも十数年の間、互いに顔を知らないことがあり、ただ人を遣わして安否と贈り物で心を通わせるだけである。鄴の習いは、もっぱら妻が家を取り仕切り、訴訟の是非を争い、訪ねて頼み込み出迎えるので、車が街路を埋め、綾や絹が役所に満ち、子の代わりに官を求め、夫のために不当を訴える。これは恒州・代州の残した風なのだろうか。南の貧しい家はみな外見を飾ることに努め、車や衣服は必ず立派に整えるが、家の者や妻子は飢えと寒さを免れない。河北の人の交わりは多く家の内から出るので、綾絹や金や翡翠は欠かすことができず、痩せた馬やくたびれた召使いは、ただ数をそろえるだけである。夫婦の間の礼は、ときにお前呼びをする。
11河北の女の機織り
河北婦人,織絍組紃之事,黼黻錦繡羅綺之工,大優於江東也。
河北の女の、機織りや糸組みの仕事、刺繡や錦や縫い取りや綾織りの腕は、江東よりはるかに優れている。
12娘が生まれると連れて行かせた親戚
太公曰:「養女太多,一費也。」陳蕃曰:「盗不過五女之門。」女之爲累,亦以深矣。然天生蒸民,先人傳體,其如之何?世人多不舉女,賊行骨肉,豈當如此,而望福於天乎?吾有疏親,家饒妓媵,誕育將及,便遣閽豎守之。體有不安,窺窗倚戶,若生女者,輒持將去;母隨號泣,使人不忍聞也。
太公は「娘を多く育てるのは一つの出費だ」と言い、陳蕃は「盗人も娘五人のいる家の門は通り過ぎる」と言った。娘が重荷になることもまた深い。しかし天が民を生み、先人が体を伝えるのだから、それをどうしようというのか。世の人は娘を育てないことが多く、骨肉を害している。どうしてそんなことをしておいて、天に福を望めようか。私の遠い親戚に、家に妓女や妾を多く抱えている者がいた。産み月が近づくと、門番を遣わして見張らせた。体の具合が悪くなると窓から覗き戸に寄りかかって待ち、娘が生まれると、すぐに抱えて持って行ってしまった。母が後を追って泣き叫ぶので、人は聞くに堪えなかった。
13婿は可愛がり嫁は虐げる母
婦人之性,率寵子壻而虐兒婦。寵壻,則兄弟之怨生焉;虐婦,則姊妹之讒行焉。然則女之行留,皆得罪於其家者,母實爲之。至有諺云:「落索阿姑餐。」此其相報也。家之常弊,可不誡哉!
女の性として、おおむね娘の婿を可愛がり、息子の嫁を虐げる。婿を可愛がれば兄弟の恨みが生まれ、嫁を虐げれば姉妹の陰口が行われる。とすれば、娘が嫁に行こうと家に留まろうと、どちらも自分の家で罪を得るのは、まことに母が作ることである。ことわざにまで「姑の膳は寂しい」というのは、その報いである。家のありふれた弊であるから、戒めないでいられようか。
14娘を売り嫁を買う縁組み
婚姻素對,靖侯成規。近世嫁娶,遂有賣女納財,買婦輸絹,比量父祖,計較錙銖,責多還少,市井無異。或猥壻在門,或傲婦擅室,貪榮求利,反招羞恥,可不慎歟!
婚姻は釣り合った相手とせよというのが、靖侯の立てられた定めである。近ごろの縁組みは、ついに娘を売って財を受け取り、嫁を買って絹を納め、父祖の家柄を比べ、わずかな銭まで数え立て、多くを求めて少なく返すので、市場と変わりがない。あるときは卑しい婿が門の内にいて、あるときは傲慢な嫁が家をほしいままにする。栄えと利を貪って、かえって恥を招く。慎まないでいられようか。
15人の書物を借りたら
借人典籍,皆須愛護,先有缺壞,就爲補治,此亦士大夫百行之一也。濟陽江禄,讀書未竟,雖有急速,必待卷束整齊,然後得起,故無損敗,人不厭其求假焉。或有狼籍几案,分散部帙,多爲童幼婢妾之所點汙,風雨蟲鼠之所毀傷,實爲累德。吾每讀聖人之書,未嘗不肅敬對之;其故紙有《五經》詞義,及賢達姓名,不敢穢用也。
人の書物を借りたら、どれも大切に守るべきであり、すでに欠けたり壊れたところがあれば、そのつど補い直すべきである。これもまた士大夫の百の行いの一つである。済陽の江禄は、書を読み終える前は、どんなに急な用があっても必ず巻物をきちんと束ねてから立ったので、傷んだり壊れたものがなく、人は彼が借りたいと言うのを嫌がらなかった。ある者は机に散らかし、巻と帙を分け置いて、子どもや召使いの女に汚され、風雨や虫や鼠に損なわれることが多い。これはまことに徳を損なうことである。私は聖人の書を読むたびに、厳かに敬ってこれに向かわなかったことがない。古紙に『五経』の語句や意味、また賢く達した人の名が書かれていれば、汚れた用には使わない。
16巫女や札に使うな
吾家巫覡禱請,絶於言議;符書章醮亦無祈焉,並汝曹所見也。勿爲妖妄之費。
我が家では巫女や男巫に祈り願うことは、話に出すことさえない。札や醮の祭りにも祈らない。どれもお前たちが見てきたとおりである。妖しくでたらめなことに金を使ってはならない。