いにしえの文 › 東国李相国集(東国の李相国の文集) › 前集 巻1

蝉を放してやる放蟬賦

東国李相国集(東国の李相国の文集) 東國李相國集 · 李奎報(イ・ギュボ) · 1241年(高麗・高宗28年)編 · 1251年に改め補う · 段落 1 · 漢字 279字 · 朗読 2.7分

東国李相国集(東国の李相国の文集) 前集 巻1 高麗の李奎報が生涯に作った文章を、子の李涵が1241年に編んで刻み、孫の李益培が1251年に改め補った文集。詩と賦、王に奉った表と箋、寺と塔に付けた記、碑銘と墓誌銘、手紙と序文、そしてモンゴルが攻め入った時に行き交った国書までが収められている。高句麗の始祖を歌った「東明王篇」が前集の巻3にあり、酒と琴と詩を友として自ら白雲居士と名のった人の一日一日が後集に残っている。書は、彼が目を病んで筆を置く最後の詩と、彼が死んだ後に他の人が作って付けた誄書・墓誌銘で閉じる。

彼黠者蛛。厥類繁滋。孰賦爾以機巧。養丸腹於網絲。有蟬見絓。其聲最悲。我不忍聞。放之使飛。傍有人兮誰氏子。仍詰予以致辭。惟兹二物。等蟲之微。蛛於子何損。蟬於子何裨。惟蟬之活。乃蛛之飢。此雖德君。彼必冤之。孰謂子智。胡放此爲。予初矉額而不答。俄吐一言以釋疑。蛛之性貪。蟬之質淸。䂓飽之意難盈。吸露之腸何營。以貪汚而逼淸。所不忍於吾情。何吐緖之至纖。雖離婁猶不容晴。矧兹蟲之不慧。豈覘視之能精。將飛過而忽罥。翅拍拍以愈嬰。彼營營之靑蠅。紛逐臭而慕腥。蝶貪芳以輕狂。隨風上下而不停。雖見罹而何尤。原厥咎本乎有求。汝獨與物而無競。胡爲遭此拘囚。解爾之纏縛。囑汝以綢繆。遡喬林而好去。擇美蔭之淸幽。移不可屢兮。有此網蟲之窺窬。居不可久兮。螗蜋在後。以爾謀愼爾去就。然後無尤。

あの賢しい蜘蛛は、その仲間が盛んに増えている。誰がお前に細工の才を与えて、網の糸で丸い腹を養わせたのか。蝉が一匹かかって、その声がいちばん悲しかった。私は聞くに堪えず、放して飛ばせてやった。かたわらにいた者があって、どこの家の子か、私に問い詰めて言った。 「この二つの虫は、どちらも同じ小さな虫です。蜘蛛があなたに何の損になり、蝉があなたに何の益になるのですか。蝉が生きれば、それは蜘蛛が飢えることです。こちらはあなたの恵みを受けても、あちらはきっと恨むでしょう。誰があなたを賢いと言うでしょうか。どうしてこんなことをなさるのですか。」 私ははじめ眉をひそめて答えず、やがて一言を吐いて疑いを解いてやった。 「蜘蛛の性は貪りで、蝉の質は清い。満腹をはかる心は満たしがたく、露を吸う腸は何をはかろうか。貪りと汚れで清いものを責めるのは、私の心が忍びないところだ。どうして吐く糸はあれほど細いのか、離婁でさえ目にとらえがたい。ましてこの虫は賢くないのだから、どうして見きわめることができようか。飛び過ぎようとしてふいにかかり、羽を打てば打つほどいよいよ絡まる。あの飛び回る青蠅は、入り乱れて臭いを追い、生臭いものを慕う。蝶は花の香を貪って軽々しく狂い、風に従って上り下りしてやまない。かかったとしても何を咎めよう。その過ちをもとまでたどれば、求めるものがあるからだ。お前だけは他のものと争わないのに、どうしてこんな囚われに遭ったのか。お前の絡まりを解いてやり、お前に慎むことを頼む。高い林へさかのぼってよく行き、清く奥ゆかしい良い木陰を選べ。しばしば移ってはならない、こうして網を張る虫がうかがっている。長くとどまってもならない、螳螂が後ろにいる。お前の知恵で進退を慎んでこそ、咎がない。」