止止軒記
城之東奉香之里之西肘。有草堂數十楹。白雲居士所寄也。身寄而已。心不寄也。居士謂誰。春卿自號也。榜其軒曰止止。居士自名之也。蓋以玄筮之。得止之首而名之也。止之首𝍒曰。初一。止于止。內明無咎。此言君子時止則止。其智之明如水之內朗也。初二。馬酋止。車軔俟。此言二爲平人。不隱不仕。故車軔俟而馬就止也。居士喜曰。是皆予之志也。予能識其所止而止。則可謂應初一之體。進不急於仕。退不苟於隱。以是而爲平人。則可謂叶初二之辭。予得是而名軒曰止止。果不類予之行藏耶。夫所謂止止者。能知其所止而止之者也。非其所止而止。其止也非止止也。且虎豹麋鹿蛟龍之於藪澤窟穴。識其所止而止之者也。設客行旅寄。以止于城市之中。則人以爲祅。而從而害之必矣。居士之於世。偃蹇寡合。非馴擾之物也。若與人同趨竝騖。以止于名利之域。則是何以異於虎豹麋鹿蛟龍之城市哉。此予所以求其所止而止之者也。不然。祅而害之者至矣。或曰。若子之所言。則必山林窮谷之是處。不與人雜然同域。然後可謂止止矣。今子之所止。乃城市之中。而猶謂之止止。譬之虎豹麋鹿蛟龍之藪澤窟穴。何也。曰。蟲獸之藪澤窟穴。人之城市。亦各其所止之常也。假使人庬然伏藪澤。仄然入窟穴。則亦猶虎豹麋鹿蛟龍之入城市也。毒蟲猛獸。亦必以爲祅。而群而害之矣。人而避人。被蟲獸所害。吾不忍爲也。且人所以忌人規有以害之者。非城市之隘而與處之吝也。徒以競其所求。爭其所利而已。苟與人不爭不競。雖白日有胠吾篋者。避而不見。則人之城市。亦虎豹麋鹿蛟龍之藪澤窟穴也。庸有害之者乎。居士之名軒。蓋以此也。丁卯三月十日。記。
城の東、奉香里の西の角に草堂が数十間あり、白雲居士が身を寄せている所である。身が寄っているだけで、心が寄っているのではない。居士とは誰か。春卿がみずから付けた号である。その軒に「止止」と書いて掲げたのは、居士がみずから名づけたのである。おおむね『太玄経』で占って止の首を得て名づけたのである。
止の首にいう、「初一は、止まるべき所に止まり、内が明るくて咎がない。」これは、君子が止まるべき時に止まって、その知恵の明るさが、水が内から澄んでいるようであることを言ったのである。「初二は、馬が止まり、車の歯止めが待つ。」これは、二番目が並の人となって、隠れもせず仕えもしないので、車の歯止めが待ち、馬が進んで止まることを言ったのである。
居士は喜んで言った。「これはみな私の志である。私がその止まるべき所を知って止まれるなら、初一の体に応じたといえ、進んでも仕えることに急がず、退いても隠れることにこだわらず、それで並の人となるなら、初二の言葉に合ったといえる。私はこれを得て軒の名を「止止」とした。はたして私の進退と似ていないだろうか。」
およそいわゆる「止止」とは、その止まるべき所を知って止まることである。止まるべき所でないのに止まるなら、その止まりは「止止」ではない。また、虎や豹、大鹿や鹿、蛟や龍が沼や沢や洞穴にいるのは、その止まるべき所を知って止まるのである。もし旅人が道を行くうちに、城や市のなかに止まったなら、人は妖しいものと思って、そのまま害することは間違いない。
居士は世に対してこわばって、人と合うことが少なく、飼い慣らされた物ではない。もし人とともに走り、並んで駆けて、名と利の場に止まったなら、これが虎や豹、大鹿や鹿、蛟や龍が城や市にいるのと何が違おうか。これが、私がその止まるべき所を求めて止まるわけである。そうでなければ、妖しいものと思って害する者が来るだろう。
ある人が言った。「あなたの言うとおりであれば、必ず山林や深い谷に住んで、人と混じって同じ場にいないでこそ、「止止」といえるだろう。いまあなたが止まっている所は城や市のなかであるのに、それでも「止止」と言い、虎や豹、大鹿や鹿、蛟や龍の沼や沢や洞穴にたとえるのは、どうしたことか。」
言った。「虫や獣の沼や沢や洞穴、人の城や市は、それぞれその止まるべき所の常である。かりに人が大きな体で沼や沢に伏せ、身をかしげて洞穴に入ったなら、これもまた、虎や豹、大鹿や鹿、蛟や龍が城や市に入るのと同じである。毒虫や猛獣もまた必ず妖しいものと思って、群れて害するだろう。人でありながら人を避けて、虫や獣に害されることは、私には耐えられない。
また、人が人を嫌って害そうと企てるのは、城や市が狭くてともに暮らすのに窮屈だからではない。ただその求めるものを競い、その利とするものを争うからにすぎない。まことに人と争わず競わず、たとえ真昼に私の箱を開ける者がいても、避けて見ないのであれば、人の城や市もまた、虎や豹、大鹿や鹿、蛟や龍の沼や沢や洞穴である。どうして害する者があろうか。」
居士が軒を名づけたのは、おおむねこのためである。丁卯の年三月十日に記す。
夾注 2
人玄陽家八木。
「止」は『太玄経』で陽家に属し、八木である。
陰陽隔絶。各止其所。故能如水之內自淸明。
陰と陽が塞がり絶たれて、それぞれ自分の所に止まる。だから、水が内でおのずから清く明るいようになれる。