金紫光禄大夫・参知政事・判礼部事の鄭公の墓誌銘金紫光祿大夫參知政事判禮部事鄭公墓誌銘
某月日。參知政事判禮部事鄭公薨。方葬也。夫人泣謂典喪事者曰。葬不可無銘石以識于隧。然無子姓之圖有以顯後世不朽者。痛莫甚此。予雖婦人。聞正言某是能文者。若等可爲妾奉書。往乞銘詞。某日。予自西掖。待午漏方出。夫人書至。閱其辭。有足㦖惜。則吾豈惜鄙文。以孤其意乎。於是序之曰。公諱克温。全州尙質縣人也。興威衛中郞將諱某。於公爲祖皇。神虎衛大將軍兼大僕卿諱元寧。於公爲考皇。公始籍山東。爲良醞令同正。召入內侍。進止詳華。又奉職恪謹。上甚器之。先是。有征西戰功。未賞也。上以其功。改授金吾衛散員。累轉至神虎衛郞將兼尙書工部員外郞。俄改刑部員外郞。皆仍內侍。又累至興威衛將軍兼禮部侍郞。會江南賊熾。朝廷出三軍討之。公以所領軍赴戰。素得士心。至是益訓鍊卒伍。每戰俘獲居多。賊遇公軍輒却。無敢當其鋒者。入爲大將軍兼大僕卿。凡所歷重官。自大將軍循資爲上將軍。轉秩爲尙書右僕射。掌機密爲樞密院副使。帶風憲爲御史大夫。入南臺爲守司空左僕射。登鳳閣爲知門下省事。於鳳閣遷資爲參知政事兼判禮部。階自朝散大夫正議大夫。至銀靑光祿大夫金紫光祿大夫。此其詳也。公所臨不露圭角。故當時無赫赫大名。及去皆有遺愛。凡攬轡南方。秉鉞北塞。威愛得中。人皆便之。至今頌詠不輟口。嗚呼。公之平生也。謹愿仁和。宜享壽也而不得究。隱德陰功。宜其昌後也而卒無嗣。是所未信於冥兆者已。夫人田氏。良醞令某之女也。公之卒。實貞祐三年二月某日也。上聞訃哀悼。輟視朝三日。勑有司襄事。百官會葬。贈諡曰某。公申以誄詞寵之。以某月日葬某山。予則銘其墓曰。顯允賢考。勇虎洸洸。仍世戴鶡。皆奮而揚。至公大振。鬐鬣欻張。風雲感會。遠步超驤。出將入相。手鉞腰章。機關祕邃。人莫窺量。翼亮四朝。舊德彌芳。云何不淑。豐棟云僵。伯道無兒。天意茫茫。孰承家廟。以奉蒸嘗。何以慰之。國典其喪。百官奔葬。祖道有光。男兒若此。無子何傷。相彼山阿。松檟鬱蒼。宜公之宮。萬世之藏。哀哀夫人。泣涕霑裳。乞銘勤勤。有惻于腸。鐫詞樂石。幽壤焜煌。
某月某日、参知政事・判礼部事の鄭公が亡くなった。葬ろうとするとき、夫人は泣いて喪事を司る者に言った。「葬るのに、墓道に標す銘石がないわけにはまいりません。それなのに、後の世まで朽ちぬように顕そうと図る子孫がおりません。痛みはこれより甚だしいものはありません。わたくしは女の身ですが、正言の某どのは文をよくすると聞いております。あなた方はわたくしのために書を奉じて行き、銘の詞を乞うてきてください。」
某日、私は西掖から、昼の漏刻を待ってちょうど出るところであったが、夫人の書状が届いた。その言葉を見ると、いたわしく惜しむに足るものがあった。それならば、どうして私が拙い文を惜しんで、その志に背こうか。そこで次のように序する。
公の諱は克温、全州尚質県の人である。興威衛中郎将の諱某が公の祖父であり、神虎衛大将軍兼太僕卿の諱元寧が公の父である。公ははじめ山東に籍を置いて良醞令同正となり、召されて内侍に入った。進退は細やかで美しく、また職を奉じて慎み勤めたので、王はたいそう器量ある者と見た。
これより先、西を討つ戦に功があったのに賞を受けていなかった。王はその功によって金吾衛散員に改め授けた。たびたび移って神虎衛郎将兼尚書工部員外郎に至り、ほどなく刑部員外郎に改めたが、いずれも内侍はそのまま兼ねた。また重ねて移って興威衛将軍兼礼部侍郎に至った。
折しも江南に賊が盛んになり、朝廷は三軍を出してこれを討った。公は率いる軍で戦に赴いた。もとより兵の心を得ていたが、このときに至っていよいよ隊伍を訓練したので、戦うたびに捕らえた者が多かった。賊は公の軍に出会うとすぐ退き、あえてその鋒先に当たる者はなかった。
入って大将軍兼太僕卿となった。経てきた重い官を見ると、大将軍から順を追って上将軍となり、位を移して尚書右僕射となり、機密を掌って枢密院副使となり、風憲を帯びて御史大夫となり、南台に入って守司空・左僕射となり、鳳閣に上って知門下省事となり、鳳閣から位を移して参知政事兼判礼部となった。階は朝散大夫・正議大夫から銀青光禄大夫・金紫光禄大夫に至った。これがその詳しいところである。
公は臨む先ごとに角を立てて見せなかった。それゆえ当時は輝かしい大きな名はなかったが、去った後にはどこでも遺された愛があった。南方で轡を執り、北の辺塞で鉞を執ったが、威と愛とがほどよく、人はみな安んじた。今に至るまで称える歌が口から絶えない。
ああ、公の一生は慎み深く誠実で、仁やかで和やかであったから、当然長く生きるべきであったのに、全うできなかった。隠れた徳と陰の功があったから、当然後が栄えるべきであったのに、ついに嗣ぐ子がなかった。これは冥かな兆しというものを信じがたくさせるものである。
夫人は田氏、良醞令某の娘である。公が亡くなったのは、まさに貞祐三年二月某日である。王は訃を聞いて哀しみ悼み、三日のあいだ朝の政を取りやめた。有司に命じて葬儀を助けさせ、百官が集まって葬った。諡を某と贈り、重ねて誄の詞をもって栄えとした。某月某日、某山に葬った。私はその墓に銘を作って言う。
顕らかで誠ある賢き父君は、勇ましい虎のように猛々しかった。 代を重ねて鶡の羽を戴き、みな奮い立って名を揚げた。 公に至って大いに振るい、鬣がにわかに逆立った。 風と雲とが感じ合い、遠い歩みで躍り上がった。 出ては将、入っては相、手に鉞を執り腰に印を帯びた。 心の機は奥深く秘められ、人は覗き量ることができなかった。 四代の朝を輔け明らかにし、旧い徳はいよいよ芳しかった。 どうして善からぬことに、豊かな棟木が倒れたのか。 伯道に子がなかったように、天の意は茫々としている。 誰が家廟を継いで、祭りを奉るのか。 何をもって慰めようか、国の典礼でその喪を執り行った。 百官が駆けつけて葬り、道祖の祭りに光があった。 男児がこのようであれば、子がなくとも何を傷むことがあろう。 あの山の隈を見れば、松と楸が鬱蒼と青い。 公の宮としてふさわしい、万世の蔵である。 哀しみ嘆く夫人は、涙を流して裳を濡らした。 銘を乞うことの懇ろさに、腸に沁みるものがある。 詞を樂石に鐫り、幽かな土の下が輝き映える。