巉山の神を祭る文祭巉山神文
1大王の風に身を託して早く君子の国に帰らせてください
維年月日。新羅國入淮南使檢校倉部員外郎守翰林郎賜緋銀魚袋金仁圭。淮南入新羅兼送國信等使前都統巡官承務郎殿中侍御史內供奉賜緋魚袋崔致遠等。謹以淸酌牲牢之奠。敬𢈧懸于巉山大王之靈。竊以昔辨方圓。始分淸濁。融作江海。結爲山岳。石戴土而土戴石。小者磝而大者礐。然而罕有威神。靜無稜角。與堆阜而相接。見丘陵之可學。惟靈磊磊落落。高臨鯷壑。巉巉嵒嵒。俯壓鯨潭。上則爲雲霧縈纏之骨。下則爲波濤激射之窟。黲朝則迎金烏而前出。夜則送銀蟾而後沒。是以峻德能彰乎東夏西夷。玄功不假乎南儵北忽。則彼織女之機倚河漢。秦帝之橋架溟渤。徒衒其名。莫勞我形。每謂蘊藏其片玉。豈唯廁列於雙瓊。遂使往來者虔度英靈。祈禱者盡寫精誠。旣蘋蘩之可薦。信黍稷之非馨。今者仁圭等久銜遠命。致遠也始奉殷聘。喜歸舟之旣同。佇遊轡之能竝。不患胡越之意殊。寧慙李郭之名盛。去歲初冬。及東牟東。屬以滄流尙遠。玄律將窮。浪形匌㔩而鷁難浮艦。風響驫飍而鵠恐辭籠。遂艤刳木。聊安斷蓬。一昨雖迎端月。猶懼俊風。延頸而待逢候燕。回眸而送盡歸鴻。方期利涉。龜從筮叶。直指雞林。輕浮芥葉。豈輸馳馬之蹄。願較秋鷹之捷。遠詣靈峯。難尋壽宮。但覩其靑蓮倒蘸於巨浸。碧螺高柱於晴空。仰威靈之聳塵外。想影響之飄雲中。於是潔饋饎擇肥醲。酒醴斯醹。牲牷粗豐。謹賚薄禮。敢覬陰功。伏惟大王潛施呼噏。密降指蹤。使波神拱手。川后斂容。楚師之南風且競。鄭伯之東道割通。照水鏡之心。旣分妍醜。擘土囊之口。無雜雌雄。則可朝穿汗漫。暮截鴻濛。去採石華。必同謝運。行吟肉脯。免效張融。加以某臨川自審。登木增懍。憶昔雪作夜光。氷爲夕飮。幾年獨勵於鼓篋。今日方期於扇枕。將問荊州之絹。忝披會稽之錦。見寵若驚。心如捧盈。雖智有不逮。而時然後行。况賚御筆。慮滯王程。今則裹裝旣飾。儼有行色。翫淑景以歌吟。汎安流於瞬息。唯托大王之風。早歸君子之國。俾傳帝命。無曠神職。尙饗。
維れ年月日に、新羅国入淮南使・検校倉部員外郎・守翰林郎・賜緋銀魚袋の金仁圭と、淮南入新羅兼送国信等使・前都統巡官・承務郎・殿中侍御史・内供奉・賜緋魚袋の崔致遠らが、謹んで清らかな酒と牲の供えをもって、敬んで巉山大王の霊に献じます。ひそかに思いますに、昔、方と円とを分け、初めて清と濁とを分かち、融けて江海となり、結んで山岳となりましたので、石が土を載せ土が石を載せて、小さいものは砂礫の山、大きいものは岩の山となりましたが、威ある神はまれで、静かにして角立つところもなく、丘と相連なって、丘陵が倣うに足ることを見せています。ただ神霊は高く抜きんでて落落とし、高く鯷の谷に臨み、険しく険しくして、俯して鯨の淵を押さえ、上は雲と霧とがまとわりつく骨となり、下は波濤が打ち当たって射る窟となって、朝は金烏を迎えて前に出、夜は銀の蟾を送って後に沈みます。それゆえ、すぐれた徳は東夏と西夷とに顕れ、玄妙な功は南の儵と北の忽とに頼りません。あの織女の機が天の河に寄りかかり、秦の皇帝の橋が溟渤に架かったとしても、ただその名を誇るばかりで、わが形を労することはできませんので、常にその一片の玉を蔵していると言われますが、どうして二つの玉に並んで列するだけでありましょうか。ついに往き来する者は英霊を敬んで思い、祈る者は精誠を尽くして書き述べるようになりましたので、すでに蘋と蘩とを薦めるに足り、まことに黍と稷とが香りではないのです。いま仁圭らは長く遠い命を帯び、致遠は初めて篤いお招きを奉じて、帰る船がすでに同じであることを喜び、遊ぶ手綱を並べられることを待っていますので、胡と越のように意が異なることを憂えず、どうして李膺・郭泰の名が盛んであることに恥じましょうか。昨年の初冬、東牟の東に至りましたが、滄海はなお遠く、冬の律は尽きようとし、波の形は重なり合って鷁を描いた船は浮かびがたく、風の響きは吹きつけて鵠は籠を離れることを恐れましたので、ついに丸木舟を寄せて、わずかに切れた蓬を安んじました。先ごろ正月を迎えましたが、なお強い風を恐れて、首を伸ばして季節の燕に会うのを待ち、眼を回して帰る雁をみな送りました。いままさに利く渡りを期しますと、亀卜は従い筮竹も合いましたので、まっすぐ鶏林を指して、軽く芥の葉を浮かべます。どうして走る馬の蹄に譲りましょうか。秋の鷹の速さと競いたいと願います。遠く霊なる峰に至りましたが、寿宮を尋ねることは難しく、ただその青い蓮が大きな水に逆さに浸り、碧い螺が晴れた空に高く柱のように立っているのを見て、御威光が塵の外に聳えるのを仰ぎ、影と響きとが雲の中に翻るのを思います。そこで供える食を清め、肥えて濃いものを選びましたので、酒と甘酒はここに濃く、牲はかなり豊かです。謹んで薄い礼を携えて、敢えて陰のお功を願います。伏して思いますに、大王よ、ひそかに息を吐き吸い、密かに行く跡を指し示して、波の神に手を組ませ、川の后に顔を収めさせ、楚の軍の南風をまず競わせ、鄭伯の東の道を割いて通わせてください。水鏡の心を照らしてすでに美と醜とを分け、土の袋の口を割いて雌と雄とを混じらせないでください。そうすれば、朝に汗漫を穿ち、夕べに鴻濛を断ち切って、行って石華を採れば必ず謝霊運と同じになり、歩きながら肉脯を吟じて張融に倣うことを免れます。その上、私は川に臨んでみずから省み、木に登っていよいよ怖れを増しますので、昔、雪が夜の明かりとなり氷が夕べの飲み物となって、幾年も独り学業に励んだことを思い、今日まさに枕を扇ぐことを期して、やがて荊州の絹を問い、かたじけなくも会稽の錦をまといますので、ご寵愛を見て驚いたようになり、心は満ちたものを捧げ持つようです。知恵の及ばぬところはありますが、時を得て後に行くのですし、まして御筆を携えていますので、王のお旅程が滞ることを心配します。いま旅荷はすでに整って、厳かに旅立ちの気配があり、清らかな景色を賞して歌い、安らかな流れに瞬く間に船を浮かべますので、ただ大王の風に身を託して、早く君子の国に帰り、皇帝のご命令を伝えて、神の職分を空しくしないようにさせてください。どうぞ享けてください。
夾注 1
神職は、使者である自分の職分(臣職)と読むこともできる。 ― 訳者