世の住みにくさ世のありにくさ
1どこに住み、何をすればよいのか
すべて世のありにくきこと、わが身とすみかとの、はかなくあだなるさまかくのごとし。いはむや所により、身のほどにしたがひて、心をなやますこと、あげてかぞふべからず。もしおのづから身かずならずして、權門のかたはらに居るものは深く悅ぶことあれども、大にたのしぶにあたはず。なげきある時も聲をあげて泣くことなし。進退やすからず、たちゐにつけて恐れをのゝくさま、たとへば、雀の鷹の巢に近づけるがごとし。もし貧しくして富める家の隣にをるものは、朝夕すぼき姿を耻ぢてへつらひつゝ出で入る妻子、僮僕のうらやめるさまを見るにも、富める家のひとのないがしろなるけしきを聞くにも、心念々にうごきて時としてやすからず。もしせばき地に居れば、近く炎上する時、その害をのがるゝことなし。もし邊地にあれば、往反わづらひ多く、盜賊の難はなれがたし。いきほひあるものは貪欲ふかく、ひとり身なるものは人にかろしめらる。寶あればおそれ多く、貧しければなげき切なり。人を賴めば身他のやつことなり、人をはごくめば心恩愛につかはる。世にしたがへば身くるし。またしたがはねば狂へるに似たり。いづれの所をしめ、いかなるわざをしてか、しばしもこの身をやどし玉ゆらも心をなぐさむべき。
すべて世に住みにくいこと、私の身と住まいとのはかなく無益なさまは、このようなものです。まして住む所により、身の程に従って心を悩ませることは、挙げて数えきれません。
もし自分の身が物の数でもないのに、権門のかたわらに住む者は、深く喜ぶことがあっても大いに楽しむことができません。嘆きのあるときも声を上げて泣くことがありません。進退が安らかでなく、立ち居につけて恐れおののくさまは、たとえば雀が鷹の巣に近づいたようなものです。
もし貧しくて富んだ家の隣にいる者は、朝夕みすぼらしい姿を恥じてへつらいながら出入りし、妻子や召使いが羨むさまを見るにも、富んだ家の人のないがしろな様子を聞くにも、心が念々に動いて、時として安らかではありません。
もし狭い土地に住めば、近くで火が燃え上がるとき、その害を逃れることができません。もし辺地にあれば、往き来に煩わしさが多く、盗賊の難を離れがたいのです。
勢いのある者は貪欲が深く、独り身の者は人に軽しめられます。宝があれば恐れが多く、貧しければ嘆きが切ないのです。人を頼れば身が他人の奴となり、人をはぐくめば心が恩愛に使われます。世に従えば身が苦しく、また従わなければ狂っているのに似ています。
どの所を占め、どのような業をして、しばらくもこの身を宿し、ほんの一瞬も心を慰めることができるのでしょうか。