いにしえの文 › 懲毖録(過ちを懲らし後の憂いを慎む記録) › 巻7 辰巳錄

山城を修め整えて野を清め入って守らせ、また海辺の諸邑の穀を宣川の木彌島へ移し置いて思わぬ事に備えることを請うた状啓請修葺山城淸野入保且移置海邊列邑之糓於宣川木彌島以備不虞狀

懲毖録(過ちを懲らし後の憂いを慎む記録) 懲毖錄 · 柳成龍(リュ・ソンリョン) · 1633年刊行(壬辰倭乱の後に著す) · 段落 1 · 漢字 517字 · 朗読 4.6分

懲毖録(過ちを懲らし後の憂いを慎む記録) 巻7 辰巳錄 壬辰倭乱が終わった後、領議政の柳成龍が自らの目で見たものを記して残した記録。「過ぎたことを懲らして後の憂いを慎む」という意で名を付けた。戦争がどのように始まり、朝廷が何を見落としたかを言い逃れなく記した。李舜臣を推挙したこと、明の軍とのいざこざ、民が経た惨状がそのまま収められている。

臣前於狀。啓略達山城之事蓋出於不得已蓋賊兵千里遠來已經半年豈能自爲齎糧其實皆因糧於我耳設使平壤無積粟雖有百丈之城賊安得以堅據乎今賊兵久不出自秋深始有合類西下之狀安知其兇計又欲待我秋糓已收公私蓄積粗實然後更爲鼓行之謀乎兵家禦賊之䇿必以淸野爲上而我國不知出此傳聞京畿等地滿野禾穀盡輸於賊處處皆然而平壤四面數十里內已熟之糓皆未收穫賊逐日掠取者不知其幾肆意滿載而去設使村民離散不時收入而軍民猶可設伏於賊路合力刈取則其爲齎盜不至如是之甚誠可痛惜然此猶其小小者耳各官距平壤至近之地如順安肅川及三縣安州以北時方督捧還上稍稍皆入於官庫而求其捍禦保守之具則無一處可恃萬一不幸而又有意外之變如前日之爲則是使賊氣愈飽而長驅之勢更不可止極爲寒心臣之愚意急擇道內山城堅固處聚本邑及近邑之糓與其人民別定驍將爲堅守之計其無城子處亦當移糓近海或於海島可藏處姑作假庫儲糓而臨時取用旣備不虞之患且困賊勢此今日至急之務也臣聞宣川木彌島距陸不甚遠島內廣濶且有山寺云若使此島在南方則當設鎭守之而特西方不備海道故但爲牧場如海邊各處之糓亦當移置此處有急則使民入保賊退則以舟輸出可以兩便竊念今日事勢危迫如此苟有一端可行之策皆當急急行之不可以事勢已急而莫爲之所故不憚煩複至於屢瀆惶恐無地

臣はさきの状啓で山城の事を大略申し上げましたが、これはやめられないところから出たものです。おおよそ敵兵は千里の遠い路を来てすでに半年を過ごしましたから、どうして自ら糧を負って来たでしょうか。実のところ、すべて我らから糧を得ただけです。たとえ平壌に積んだ穀がなかったなら、たとえ百丈の城があっても敵がどうして固く拠れたでしょうか。

今、敵兵が長く出て来ずにいて、秋が深まってようやく輩を集めて西へ下る気配があります。その凶い謀りごとが、また我らの秋の穀がすべて収められ、公私の蓄えが少し実るのを待って後に、改めて鼓を鳴らして進む算段であるかどうか、どうして分かりましょうか。

敵を防ぐ計策は必ず野を清めることを上としますのに、我が国はこのようにすることを知りません。伝え聞きますに、京畿などの地では野に満ちた穀をすべて敵に運んでやり、所々がみなそうであると申します。平壌の四面数十里の内の熟した穀をすべて収めきれず、敵が日ごとに掠め去るものがどれほどか分からず、思いのままに満載して行きます。たとえ村の民が散って時に合わせて収め入れられなくとも、軍と民がそれでも敵の通う路に伏兵を置いて力を合わせて刈り収めることができたなら、盗に糧を与えることがこれほど甚しくはなかったでしょうから、まことに惜しまれます。

しかしこれはなお小さな事です。平壌からごく近い順安・粛川と三県、そして安州より北の各邑が今まさに還上を督して収め、次第にすべて官の倉へ入っていますのに、それを防ぎ守る備えを探してみれば、一か所も頼るに足る所がありません。もし不幸にしてまた思わぬ変が先の日のようにあれば、これは敵の気をいよいよ飽かせて遠く駆ける勢を重ねて止められなくするものですから、ひどく寒心すべきことです。

臣の愚かな思いでは、急ぎ道中の山城のうち固い所を択んで、その邑と近い邑の穀とその民を集め、勇ましい将を別に定めて固く守る計策とし、城のない所は、また当然、穀を海の近くへ移すか、海の島の隠すに足る所にまず仮の倉を建てて穀を置き、時に臨んで取って用いさせることです。すでに思わぬ患いに備え、また敵の勢を困しませるものですから、これが今日の至って急な務めです。

臣が聞きますに、宣川の木彌島は陸からそれほど遠くなく、島の内が広く、また山に寺があると申します。もしこの島が南方に在ったなら、当然、鎮を設けて守ったでしょうが、ただ西方は海路を備えないために、ただ牧場としただけです。海辺の諸所の穀を、また当然この地へ移し置いて、急であれば民を入れて守らせ、敵が退けば舟で運び出せば、二つともに便です。

ひそかに思いますに、今日の事の形勢がこのように危うく迫っておりますので、まことに一つでも行うに足る計策があればみな急ぎ行うべきで、事がすでに急だからといって手を放してはなりません。ですから煩わしく重ねて申し上げることを憚りませんでしたが、幾度も煩わせたことに至っては恐れ入るばかりです。

夾注 1

壬辰九月

壬辰の年九月。