敵の形勢を論じて報じた状啓論報賊勢狀
臣前者聞賊將有添兵之報卽發遣臣軍官金善義於黃海道傳通巡察使及防禦使等處使之與左防禦使合兵邀截且急通於江華乘賊下來以舟師橫截津渡以止其西下之勢且又通於防禦使李鎰使之紏合諸陣之兵乘機勦擊且聞大同江等處賊兵無備往來自如又令金億秋率舟師乘夜直上焚毀賊船且以神機箭火炮等多數發射衝火於大同門而預令一人潜布菱鐵於門外乘其亂出之際從船上亂射各處諸將憚於賊衆皆按甲不前使賊千里橫行一無呵禁坐令平壤兇徒多聚前頭之事極爲可憂平壤地形西北險固而東南平易舟師一事固當早施掩其不意可以有功而當初遲疑不進久失機會十八日始爲進去而無及於已聚之賊更違節制徒令賊兵覺知而少無所獲只以數隻空船備數塞責亦何益於事哉大扺軍律解弛遠近將士皆無力戰之心賊氣日盛而我勢日弱許多戰陣所用器械皆不整辦徒持弓矢以爲禦賊之具夫弓矢固爲利器而百步之外不能當鐵丸數步之內無以制短兵軍士旣無所恃則其致奔敗亦不足怪今因慶尙道狀啓陪持人聞兵使朴晉擊破諸處賊陣時用連弩震天雷此最爲敵人所畏云今雖已晚猶可措備而各官所有震天雷皆失其制度不可以飛擊欲更鑄成則必費時日江邊列邑有所急令該司輸到軍前以備戰用爲當。天兵出來日期全未聞知雖稱軍事尙密而期日已盡賊謀難測朝夕之間憂慮萬端而環顧在我之勢無一可恃痛悶罔極。朝廷各別多般聞見計議亭當急急通諭俾無狼狽之虞江冰若合則北虜之事亦甚可慮臣意北虜貪而無計易以利誘如有更以來救之狀言說則姑爲鎭撫賞給以息其狼噬之患如唐時欲圖恢復不得不與回籺連和蓋其勢然也臣言似迃而實關大計不勝區區悶迫之忱累次陳達極爲惶恐
臣はさきに敵がこれから兵を加えるという報せを聞き、すぐ臣の軍官の金善義を黄海道へ遣わして巡察使と防禦使などの所へ伝え知らせ、左防禦使と軍を合わせて迎え断たせました。また急ぎ江華に通じて、敵が下る隙に乗じて舟師で渡しを横に遮り、西へ下る勢を止めさせ、また防禦使の李鎰に通じて諸陣の軍を糾め合わせ、機に乗じて撃ち殺させました。また聞きますに、大同江などの地に敵兵が備えもなく思いのままに往き来していると申しますので、金億秋に舟師を率いて夜に乗じてまっすぐ上り、敵の船を焼き毀させ、また神機箭と火砲などを多く射かけて大同門に火を衝かせ、予め一人に門の外へ菱鉄を密かに敷かせて、彼らが乱れ出る隙に乗じて船の上から乱れ射させました。
ところが諸所の諸将が敵の衆を憚ってみな甲を按じて前へ進まず、敵に千里を思いのままに行かせて、一度も呵り禁じられませんでした。座したまま平壌の凶い輩を多く集まらせましたので、これからの事が至って憂えられます。
平壌の地の形は西北が険しく固く、東南が平らで易しいのです。舟師の一事は、まことに早く施して不意を襲ったなら功があったでしょうに、当初ためらい疑って進まず、長く機会を失いました。十八日になってようやく進みましたが、すでに集まった敵には及ばず、重ねて節制を違えて、いたずらに敵兵に覚り知られるばかりで、少しも得るところなく、ただ空の船数隻で数を充てて責めを塞いだだけですから、これもまた事に何の助けになりましょうか。
おおよそ軍律が解け弛んで、遠近の将と士がみな力を尽くして戦う心がありません。敵の気は日ごとに盛んで、我が形勢は日ごとに弱いのです。多くの戦いに用いる器械をすべて整え備えられず、いたずらに弓矢だけを持って敵を防ぐ具としております。およそ弓矢はまことに鋭い器ですが、百歩の外では鉄丸に当たりきれず、数歩の内では短い兵器を制せません。軍士にすでに頼るものがないのですから、走り崩れるに至るのも怪しむに足りません。
今、慶尚道の状啓を奉じて来た人に聞きますに、兵使の朴晋が諸所の敵陣を撃ち破る時に連弩と震天雷を用いましたが、これを敵が最も畏れたと申します。今はたとえ遅くなっても、まだ備えることができます。ところが各邑に在る震天雷はすべてその制を失って飛ばして撃てず、改めて鋳て作ろうとすれば必ず日が要ります。江辺の諸邑に在るものを掌る司に急ぎ軍の前へ運び送らせ、戦いに用いさせられるのが当然です。
明の軍が出て来る日付をまったく聞き知りません。兵事は密かなことを尚ぶと申しますが、期限の日がすでに尽き、敵の謀りごとは測りがたいので、朝と夕のあいだに憂いが万通りで、我らに在る形勢を見回しても一つも頼るものがなく、痛み悩むことが極まりません。朝廷から格別にいろいろに聞き見て量り、宜しく議されて、急ぎ通じ諭され、狼狽する憂いがないようにしてください。
江が氷り合えば、北の虜の事もひどく憂慮されます。臣の思いでは、北の虜は貪りはするが計りごとがなく、利で誘いやすいのです。もし改めて来て救おうという話があれば、まずは鎮め撫で、賞を与えて、狼のように噬みつく患いを息ませてください。唐の時に取り戻すことを図って回紇と和を連ねないわけにはいかなかったのと同じで、おおよそその形勢がそうであったからです。臣の言葉は回り道のようですが、実は大きな計策にかかわりますので、区々と悩み迫られる誠に堪えず、幾度も申し上げますので、至って恐れ入ります。
夾注 1
壬辰十一月
壬辰の年十一月。