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山木莊子 外篇 山木

荘子(荘周の書) 莊子 · 荘周と後の人びと · 戦国時代(紀元前4〜3世紀)· 西晋・郭象の33篇本 · 段落 40 · 漢字 2,380字 · 朗読 9.5分

荘子(荘周の書) 外篇 「北の黒い海に魚がいる、その名を鯤という」 — この一行で始まり、背の広さが何千里あるか分からない鳥が南の海へ飛んでいくところから書が開く。胡蝶の夢を見て目覚め「私が胡蝶の夢を見たのか、胡蝶が私の夢を見ているのか」と問い、牛を解く庖丁は十九年のあいだ刃を研がず、妻が死ぬと盆を叩いて歌う。蝸牛の角の上で国と国が戦って死者数万が倒れたという話で戦をやめさせ、恵子の墓を過ぎて「私にはもう語り合う者がいない」と言う。道徳経と並べて置けば、同じところをまるで違う声で語っているのが聞こえる。

1役に立たないので天寿を終えた大きな木

莊子行於山中,見大木,枝葉盛茂。伐木者止其旁而不取也。問其故,曰:「无所可用。」莊子曰:「此木以不材得終其天年。」

荘子が山の中を行き、大きな木を見た。枝も葉も茂っていた。木を伐る者がその傍らに立ち止まりながら伐らなかった。その理由を問うと「使い所がない」と言った。荘子が言った。「この木は材にならないので、天から授かった年を終えることができたのだな。」

2鳴けない鵞鳥を潰す

夫子出於山,舍於故人之家。故人喜,命豎子殺雁而烹之。豎子請曰:「其一能鳴,其一不能鳴,請奚殺?」主人曰:「殺不能鳴者。」

先生は山を出て、古い友の家に泊まった。古い友は喜んで、召使いの子に鵞鳥を潰して煮るように言いつけた。召使いの子が尋ねた。「一羽は鳴けますが、一羽は鳴けません。どちらを潰しましょうか。」主人が言った。「鳴けないほうを潰せ。」

3先生はどこに身を置かれますか

明日,弟子問於莊子曰:「昨日山中之木,以不材得終其天年;今主人之雁,以不材死;先生將何處?」

翌日、弟子が荘子に問うた。「昨日の山の中の木は、材にならないので天から授かった年を終えることができ、今日の主人の鵞鳥は、材にならないので死にました。先生はどこに身を置かれますか。」

4材と不材のあいだ

莊子笑曰:「周將處乎材與不材之間。材與不材之間,似之而非也,故未免乎累。若夫乘道德而浮遊則不然。无譽无訾,一龍一蛇,與時俱化,而无肯專為;一上一下,以和為量,浮遊乎萬物之祖;物物而不物於物,則胡可得而累邪!此神農黃帝之法則也。若夫萬物之情,人倫之傳,則不然。合則離,成則毀;廉則挫,尊則議,有為則虧,賢則謀,不肖則欺。胡可得而必乎哉!悲夫,弟子志之,其唯道德之鄉乎!」

荘子が笑って言った。「私は材と不材のあいだに身を置こう。しかし材と不材のあいだは、似ているが違うので、累わしさを免れない。

およそ道徳に乗って浮かび遊ぶなら、そうではない。誉れもなく謗りもなく、あるときは龍となりあるときは蛇となって、時とともに移り変わり、一つのことだけを専らにしようとしない。あるときは上がりあるときは下がり、和らぎを尺度として万物の祖に浮かび遊ぶ。物を物として使いながら物に物とされないのだから、どうして累わされようか。これが神農や黄帝の法則である。

およそ万物の実情や人のあいだに伝わってきたものは、そうではない。合わされば離れ、成れば壊れる。清廉であれば折られ、高ければ論じられ、為すことがあれば損なわれ、賢ければ謀られ、愚かであれば欺かれる。どうして必ずこうだと言えようか。

悲しいことだ。弟子たちよ、覚えておきなさい。ただ道徳の里だけだ。」

5市南宜僚が魯の君に会う

市南宜僚見魯侯,魯侯有憂色。市南子曰:「君有憂色,何也?」

市南宜僚が魯の君に会うと、魯の君は憂える顔つきだった。市南子が言った。「君が憂える顔つきなのは、どうしてですか。」

6憂いを免れないわけ

魯侯曰:「吾學先王之道,脩先君之業;吾敬鬼尊賢,親而行之,无須臾離居;然不免於患,吾是以憂。」

魯の君が言った。「私は先王の道を学び、先君の業を修めた。私は鬼を敬い賢者を尊び、自ら親しく行って片時も離れたことがない。それでも患いを免れないので、私はこれを憂えているのだ。」

7狐や豹はその皮が災いである

市南子曰:「君之除患之術淺矣!夫豐狐文豹,棲於山林,伏於巖穴,靜也;夜行晝居,戒也;雖飢渴隱約,猶旦胥疏於江湖之上而求食焉,定也;然且不免於罔羅機辟之患。是何罪之有哉?其皮為之災也。今魯國獨非君之皮邪?吾願君刳形去皮,洒心去欲,而遊於无人之野。南越有邑焉,名為建德之國。其民愚而朴,少私而寡欲;知作而不知藏,與而不求其報;不知義之所適,不知禮之所將。猖狂妄行,乃蹈乎大方。其生可樂,其死可葬。吾願君去國捐俗,與道相輔而行。」

市南子が言った。「君が患いを除く手だては浅いものです。

およそ肥えた狐や斑の豹は、山林に棲み、岩穴に伏せます。静かさです。夜に歩き昼に籠もります。慎みです。飢え渇いて窮しても、それでも川や湖のほとりで遠く離れて餌を求めます。落ち着きです。それでも網や罠の患いを免れません。これが何の罪でしょう。その皮が災いとなったのです。

いま魯の国こそ君の皮ではありませんか。私は君が身を削り皮を捨て、心を洗い欲を捨てて、人のいない野に遊ばれることを願います。

南越に町があり、名を徳を建てた国といいます。その民は愚かで素朴、私心が少なく欲が少ない。作ることは知っていても蓄えることを知らず、与えてもその返しを求めません。義がどこに適うかを知らず、礼が何を奉じるかを知りません。狂ったように勝手に歩きながら、そのまま大きな道を踏んでいます。その生は楽しむに足り、その死は葬るに足ります。

私は君が国を捨て俗を投げ出して、道と互いに助け合って行かれることを願います。」

8道が遠く険しいのに舟も車もない

君曰:「彼其道遠而險,又有江山,我无舟車,柰何?」

君が言った。「その道は遠く険しく、また川も山もある。私に舟も車もないので、どうしようか。」

9身の傲りと居座りを捨てるのが車である

市南子曰:「君无形倨,无畱居,以為君車。」

市南子が言った。「君が身の傲りを捨て、居座ることを捨てられれば、それが君の車となります。」

10はるか遠く人もいないのに誰と隣り合おう

君曰:「彼其道幽遠而无人,吾誰與為鄰?吾无糧,我无食,安得而至焉?」

君が言った。「その道ははるか遠く人もいないので、私は誰と隣り合おう。私に糧がなく食べ物もないので、どうして至れようか。」

11空の舟が来てぶつかれば怒らない

市南子曰:「少君之費,寡君之欲,雖无糧而乃足。君其涉於江而浮於海,望之而不見其崖,愈往而不知其所窮。送君者皆自崖而反。君自此遠矣!故有人者累,見有於人者憂。故堯非有人,非見有於人也。吾願去君之累,除君之憂,而獨與道遊於大莫之國。方舟而濟於河,有虛船來觸舟,雖有惼心之人不怒;有一人在其上,則呼張歙之;一呼而不聞,再呼而不聞,於是三呼邪,則必以惡聲隨之。向也不怒而今也怒,向也虛而今也實。人能虛己以遊世,其孰能害之!」

市南子が言った。「君の出費を減らし、君の欲を少なくされれば、糧がなくても足ります。

君が川を渡って海に浮かべば、眺めてもその岸が見えず、行くほどにその尽きる所が分からなくなります。君を送る者はみな岸から帰り、君はここから遠ざかります。

ですから人を持つ者は累わされ、人に持たれる者は憂えます。ですから堯は人を持つこともなく、人に持たれることもありませんでした。私は君の累わしさを捨て、君の憂いを除いて、ただ道とともに大いにはるかな国に遊ばれることを願います。

舟を並べて川を渡るとき、空の舟が来て舟にぶつかれば、気短な人でも怒りません。ところがその上に一人でも乗っていれば、声を上げて退けと言います。一度呼んで聞かず、二度呼んで聞かなければ、三度目には必ず悪い言葉が続きます。

さきには怒らず、いま怒るのは、さきには空で、いまは満ちているからです。人が自分を空しくして世に遊べるなら、誰が彼を害しましょう。」

12北宮奢が鐘を作る

北宮奢為衞靈公賦斂以為鐘,為壇乎郭門之外。三月而成上下之縣。

北宮奢が衛の霊公のために税を集めて鐘を作るとき、城門の外に壇を築いた。三か月で上下二段に掛けるものを仕上げた。

13あなたは何の手だてを用いたのか

王子慶忌見而問焉,曰:「子何術之設?」

王子慶忌が見て問うた。「あなたは何の手だてを用いたのか。」

14彫り、磨いたうえで、また素木に返る

奢曰:「一之閒,无敢設也。奢聞之,『既彫既琢,復歸於朴。』侗乎其无識,儻乎其怠疑;萃乎芒乎,其送往而迎來;來者勿禁,往者勿止;從其強梁,隨其曲傅,因其自窮。故朝夕賦斂而毫毛不挫,而況有大塗者乎!」

奢が言った。「一つのうちで、敢えて何かを用いたことはありません。私が聞くところでは『彫り、磨いたうえで、また素木に返る』ということです。

ぼんやりとして知るところがなく、うつろで怠けて疑うようであり、集まりおぼろとして、去る者を送り来る者を迎えます。来る者を禁じず、去る者を止めず、その強い者に従い、その曲がった者に付き添って、その自ずから尽きるのに任せます。

ですから朝夕に税を集めても毛一筋折れることがありませんでした。まして大きな道を持つ人ならなおさらです。」

15孔子が陳と蔡のあいだで囲まれる

孔子圍於陳蔡之間,七日不火食。

孔子が陳と蔡のあいだで囲まれ、七日のあいだ火を通したものを食べられなかった。

16あなたは死にかけている

大公任往弔之,曰:「子幾死乎?」曰:「然。」

大公任が見舞いに行って言った。「あなたは死にかけている。」言った。「そうだ。」

17あなたは死を嫌うか

「子惡死乎?」曰:「然。」

「あなたは死を嫌うか。」言った。「そうだ。」

18東海の鳥、意怠 — まっすぐな木が先に伐られる

任曰:「予嘗言不死之道。東海有鳥焉,其名曰意怠。其為鳥也,翂翂翐翐,而似无能;引援而飛,迫脅而棲;進不敢為前,退不敢為後;食不敢先嘗,必取其緒。是故其行列不斥,而外人卒不得害,是以免於患。直木先伐,甘井先竭。子其意者飾知以驚愚,修身以明汙,昭昭乎如揭日月而行,故不免也。昔吾聞之大成之人曰:『自伐者无功,功成者墮,名成者虧。』孰能去功與名而還與衆人!道流而不明,居得行而不名處;純純常常,乃比於狂;削迹捐勢,不為功名。是故无責於人,人亦无責焉。至人不聞,子何喜哉?」

任が言った。「私が死なない道を話してみよう。

東海に鳥がいて、その名を意怠という。その鳥のさまはのろのろと鈍く、何の能もないようだ。互いに誘い合って飛び、身を寄せ合って棲み、進むときに敢えて先に立たず、退くときに敢えて後ろにならない。食べるときに敢えて先に味わわず、必ずその残りを取る。

だからその列から押し出されず、外の者もついに害することができないので、これによって患いを免れる。

まっすぐな木が先に伐られ、甘い井戸が先に枯れる。 あなたはおそらく知を飾って愚かな者を驚かし、身を修めて人の汚れを明らかにし、明るいさまは日や月を掲げて歩くようだ。だから免れないのだ。

昔、私が大きく成った人に聞いたところでは『自ら誇る者には功がなく、功が成った者は崩れ、名が成った者は損なわれる』という。誰が功と名を捨てて衆人に返ることができよう。

道が流れても明らかにせず、得て行えても名を置かず、素朴で変わらないので、そのまま狂ったようである。跡を削り勢いを捨てて、功も名も作らない。

だから人を責めることがなく、人も彼を責めない。至人は知られないのに、あなたは何を喜ぶのか。」

19学問を捨てて大きな沢へ逃げる

孔子曰:「善哉!」辭其交遊,去其弟子,逃於大澤;衣裘褐,食杼栗;入獸不亂羣,入鳥不亂行。鳥獸不惡,而況人乎!

孔子が言った。「よいことだ。」交わる者たちに別れを告げ、弟子たちを去って大きな沢へ逃げた。皮衣と粗い麻の衣を着、櫟の実や栗を食べた。獣の中に入っても群れを乱さず、鳥の中に入っても列を乱さなかった。鳥や獣さえ嫌わないのだから、まして人はなおさらである。

20私がこの幾つもの患いに遭うと

孔子問子桑雽曰:「吾再逐於魯,伐樹於宋,削迹於衞,窮於商周,圍於陳蔡之間。吾犯此數患,親交益疏,徙友益散,何與?」

孔子が子桑雽に問うた。「私は魯で二度追われ、宋で木を伐られ、衛で跡を削られ、商と周で窮し、陳と蔡のあいだで囲まれた。私がこの幾つもの患いに遭うと、親しい者はいよいよ疎くなり、従っていた友はいよいよ散っていく。どうしたことだろうか。」

21林回が千金の璧を捨てて赤子を背負う

子桑雽曰:「子獨不聞假人之亡與?林回棄千金之璧,負赤子而趨。或曰:『為其布與?赤子之布寡矣;為其累與?赤子之累多矣;棄千金之璧,負赤子而趨,何也?』林回曰:『彼以利合,此以天屬也。』夫以利合者,迫窮禍患害相棄也;以天屬者,迫窮禍患害相收也。夫相收之與相棄亦遠矣,且君子之交淡若水,小人之交甘若醴;君子淡以親,小人甘以絕。彼无故以合者,則无故以離。」

子桑雽が言った。「あなたはあの仮の国の人が逃げた話を聞いたことがないか。

林回は千金の璧を捨て、赤子を背負って走った。ある人が言うには『値で言えば赤子の値は少なく、荷で言えば赤子の荷は重い。千金の璧を捨てて赤子を背負って走るとは、どうしたことか』と。

林回が言うには『あちらは利で合わさったもの、こちらは天でつながったものだ』と。

およそ利で合わさった者は、窮して禍や患いが迫れば互いに捨て合い、天でつながった者は、窮して禍や患いが迫れば互いに引き受け合う。およそ互いに引き受け合うことと互いに捨て合うことは、やはり遠く隔たっている。

それに君子の交わりは淡いことが水のようで、小人の交わりは甘いことが甘酒のようだ。君子は淡くて親しくなり、小人は甘くて切れる。あの理由もなく合わさった者は、理由もなく離れる。」

22謹んでお言葉を承りました

孔子曰:「敬聞命矣!」徐行翔佯而歸,絕學捐書,弟子无挹於前,其愛益加進。

孔子が言った。「謹んでお言葉を承りました。」ゆっくりと歩きめぐって帰り、学問を絶ち書物を捨てると、弟子は前で揖をしなくなったが、その慕う心はいよいよ深まった。

23舜が死に臨んで禹に告げる

異日,桑雽又曰:「舜之將死,真泠禹曰:『汝戒之哉!形莫若緣,情莫若率。緣則不離,率則不勞;不離不勞,則不求文以待形;不求文以待形,固不待物。』」

別の日、桑雽がまた言った。「舜が死に臨んで、まことに禹に告げた。『お前は慎むがよい。身は縁に従うに及ぶものがなく、情はそのままに任せるに及ぶものがない。縁に従えば離れず、そのままに任せれば労しない。離れず労しなければ、飾りを求めて身を装わない。飾りを求めて身を装わなければ、もともと物を待たない。』」

24荘子が継ぎの当たった麻の衣で魏の王の前を通る

莊子衣大布而補之,正緳係履而過魏王。魏王曰:「何先生之憊邪?」

荘子が粗い麻の衣に継ぎを当てて着、麻縄で履を結んで魏の王の前を通った。魏の王が言った。「どうして先生はそんなに疲れているのか。」

25貧しいのであって疲れているのではありません

莊子曰:「貧也,非憊也。士有道德不能行,憊也;衣弊履穿,貧也,非憊也;此所謂非遭時也。王獨不見夫騰猿乎?其得柟梓豫章也,攬蔓其枝而王長其間,雖羿、蓬蒙不能眄睨也。及其得柘棘枳枸之間也,危行側視,振動悼慄;此筋骨非有加急而不柔也,處勢不便,未足以逞其能也。今處昏上亂相之間,而欲无憊,奚可得邪?此比干之見剖心徵也夫!」

荘子が言った。「貧しいのであって疲れているのではありません。士が道徳を持っていても行えないのが疲れていることです。衣が破れ履に穴が空いているのは貧しいのであって、疲れているのではありません。これがいわゆる時に出会わないということです。

王は、あの木を登る猿をご覧になったことがないでしょうか。それが楠や梓や豫章の木を得れば、枝をつかんでその間で王のように振る舞い、羿や蓬蒙でも横目で狙うことができません。ところが山桑や茨や枳の間に入れば、危うげに歩き横目で見て、震えて怯えます。これは筋や骨がこわばって柔らかくなくなったからではなく、置かれた勢いが都合悪くて、その能を伸ばすに足らないからです。

いま暗い君と乱れた相のあいだにいて疲れずにいようと望んでも、どうして叶いましょう。これが比干が心臓を割かれたしるしです。」

26孔子が枯れ木を叩いて歌う

孔子窮於陳蔡之間,七日不火食,左據槁木,右擊槁枝,而歌猋氏之風,有其具而无其數,有其聲而无宮角,木聲與人聲,犁然有當於人之心。

孔子が陳と蔡のあいだで窮し、七日のあいだ火を通したものを食べられなかった。左は枯れ木に寄りかかり、右は枯れ枝を叩いて、猋氏の歌を歌った。その道具はあっても調べがなく、その声はあっても宮も角もなかった。木の音と人の声が、はっきりと人の心に当たっていた。

27顔回が窺う

顏回端拱還目而窺之。仲尼恐其廣己而造大也,愛己而造哀也,曰:「回,无受天損易,无受人益難。无始而非卒也,人與天一也。夫今之歌者其誰乎?」

顔回は端然と手を組み、目を向けて窺った。仲尼は、彼が自分を大きく見て誇大にするのではないか、自分を惜しんで哀しむのではないかと恐れて言った。

「回よ、天の減らすものを受けないことは易しく、人の加えるものを受けないことは難しい。始まりであって終わりでないものはなく、人と天は一つだ。およそ今歌っている者は誰だろうか。」

28天の減らすものを受けないことが易しいとは

回曰:「敢問无受天損易。」

回が言った。「敢えて、天の減らすものを受けないことが易しいということをお尋ねします。」

29飢えと渇き、寒さと暑さは天地の運行である

仲尼曰:「飢渴寒暑,窮桎不行,天地之行也,運物之泄也,言與之偕逝之謂也。為人臣者,不敢去之。執臣之道猶若是,而況乎所以待天乎!」

仲尼が言った。「飢えと渇き、寒さと暑さ、窮まり塞がって行えないことは、天と地の運行であり、物がめぐって漏れ出ることである。それとともに流れ去るということだ。

人の臣である者は、敢えてこれを捨てない。臣の道を守ることさえこうなのだから、まして天に向かうことならなおさらだ。」

30人の加えるものを受けないことが難しいとは

「何謂无受人益難?」

「何を、人の加えるものを受けないことが難しいというのですか。」

31燕ほど知る鳥はない

仲尼曰:「始用四達,爵祿並至而不窮,物之所利,乃非己也,吾命其在外者也。君子不為盜,賢人不為竊。吾若取之,何哉!故曰,鳥莫知於鷾鴯,目之所不宜處不給視,雖落其實,棄之而走。其畏人也,而襲諸人間。社稷存焉爾。」

仲尼が言った。「初めて用いられれば四方に通じ、爵も禄も並んで至って尽きることがない。それは物が利するものであって自分から出たものではないのだから、私の命は外にあるということだ。

君子は盗まず、賢人は掠めない。私がそれを取るなら、どうなることだろう。

だから言う。鳥のうち燕ほど知るものはない。目に適わない所は見もせず、実を落としても捨てて飛び去る。人を恐れながら人のあいだに棲みつく。社や稷がそこにあるだけのことだ。」

32始まりであって終わりでないものはないとは

「何謂无始而非卒?」

「何を、始まりであって終わりでないものはないというのですか。」

33正しくして待つだけだ

仲尼曰:「化其萬物而不知其禪之者,焉知其所終?焉知其所始?正而待之而已耳。」

仲尼が言った。「万物を移り変わらせながら、それを受け渡す者を知らないのだから、どうしてその終わる所を知り、どうしてその始まる所を知ろう。正しくして待つだけだ。」

34人と天が一つであるとは

「何謂人與天一邪?」

「何を、人と天が一つであるというのですか。」

35聖人は安らかに流れ去ることを身として終わる

仲尼曰:「有人,天也;有天,亦天也。人之不能有天,性也,聖人晏然體逝而終矣!」

仲尼が言った。「人があるのも天であり、天があるのもまた天である。人が天を持てないのは性である。聖人は安らかに流れ去ることを身として終わるのだ。」

36蟬と螳螂と鵲 — 互いに累わし合う

莊周遊於雕陵之樊,覩一異鵲自南方來者,翼廣七尺,目大運寸,感周之顙而集於栗林。莊周曰:「此何鳥哉,翼殷不逝,目大不覩?」蹇裳躩步,執彈而留之。覩一蟬,方得美蔭而忘其身;螳螂執翳而搏之,見得而忘其形;異鵲從而利之,見利而忘其真。莊周怵然曰:「噫!物固相累,二類相召也。」捐彈而反走,虞人逐而誶之。

荘周が雕陵の垣のうちに遊んでいて、南から来る変わった鵲一羽を見た。翼の広さは七尺、目の大きさは一寸だった。荘周の額をかすめて栗の林に止まった。

荘周が言った。「これは何の鳥だろう。翼が大きいのに飛べず、目が大きいのに見えないとは。」

裾をたくし上げ小走りに進み、弾き弓を持って狙った。

一匹の蟬が、ちょうどよい陰を得て自分の身を忘れているのを見た。螳螂が隠れ蓑を構えてそれを撃とうとし、得るものを見て自分の姿を忘れていた。変わった鵲が後から来てこれを得ようとし、利を見て自分の真を忘れていた。

荘周はぎくりとして言った。「ああ、物はもともと互いに累わし合い、二つの類が互いに呼び合うのだな。」

弾き弓を捨てて引き返して走ると、栗林の番人が追ってきて罵った。

37荘周が三日庭に出ない

莊周反入,三日不庭。藺且從而問之:「夫子何為頃間甚不庭乎?」

荘周は帰って三日庭に出なかった。藺且が従って問うた。「先生はどうしてこのところ庭に出られないのですか。」

38栗の林で真を忘れた

莊周曰:「吾守形而忘身,觀於濁水而迷於清淵。且吾聞諸夫子曰:『入其俗,從其令。』今吾遊於雕陵而忘吾身,異鵲感吾顙,遊於栗林而忘真,栗林虞人以吾為戮,吾所以不庭也。」

荘周が言った。「私は姿を守って身を忘れ、濁った水を見て清い淵で惑った。

それに私は先生から『その俗に入ればその令に従え』と聞いた。いま私は雕陵に遊んで自分の身を忘れ、変わった鵲が私の額をかすめたので栗の林に遊んで真を忘れ、栗林の番人は私を罪人と見た。私はこれで庭に出なかったのだ。」

39醜い妾が重んじられ美しい妾が軽んじられる

陽子之宋,宿於逆旅。逆旅人有妾二人,其一人美,其一人惡,惡者貴而美者賤。陽子問其故,逆旅小子對曰:「其美者自美,吾不知其美也;其惡者自惡,吾不知其惡也。」

陽子が宋へ行き、宿屋に泊まった。宿屋の主人に妾が二人あり、一人は美しく、一人は醜かった。醜いほうが重んじられ、美しいほうが軽んじられていた。

陽子がその理由を問うと、宿屋の子が答えた。「美しいほうは自分で美しいと思っていますので、私にはその美しさが分かりません。醜いほうは自分で醜いと思っていますので、私にはその醜さが分かりません。」

40賢を行っても自ら賢とする心を捨てよ

陽子曰:「弟子記之:行賢而去自賢之行,安往而不愛哉!」

陽子が言った。「弟子たちよ、覚えておきなさい。賢を行いながら自ら賢とする心を捨てるなら、どこへ行っても慕われないことがあろうか。」