いにしえの文 › 奥の細道(奥州へ向かう細道の記) › 全一巻

殺生石・遊行柳殺生石·遊行柳

奥の細道(奥州へ向かう細道の記) 奥の細道 · 松尾芭蕉 · 元禄15年(1702年)刊 · 1689年の旅 · 段落 2 · 漢字 218字 · 朗読 0.5分

奥の細道(奥州へ向かう細道の記) 全一巻 「月日は百代の過客であり、行き交う年もまた旅人です」 — 芭蕉が四十六歳で江戸を離れ、奥州と北陸を五か月かけて歩いた紀行文。夏草に武士たちの夢を見、岩にしみ入る蝉の声を聞き、一つ屋根の下に眠る遊女を萩と月に見立てる。散文が終わるところごとに俳句が一句置かれる。法顕・玄奘・慧超の求法記と並ぶ、この書斎のもう一つの道である。

1馬の口取りに短冊一枚

と取あへぬ一句を柱に殘し侍し是より殺生石に行く舘代より馬にて送らる此口付のおとこ短尺得させよと乞ふやさしき事を望み侍るものかなと 野を橫に馬引むけよ郭公

と、間に合わせの一句を柱に残しておきました。ここから殺生石へ行きます。館代が馬を出して送ってくれました。この馬の口取りの男が、短冊を一枚いただきたいと乞います。やさしいことを望む人だなと思って。

野を横切って / 馬の首を向けてくれ 郭公のほうへ

夾注 1

一本コノとナシ

異本にはこの「と」がありません。

2殺生石と遊行柳

殺生石は溫泉の出る山陰にあり石の毒氣いまだほろびす蜂蝶のたぐひ眞砂の色の見えぬほどかさなり死す亦淸水ながるゝの柳は蘆野の里に有て田の畔にのこす此所の郡守戶部某の此柳みせばやなど折〳〵にの給ひ聞へ給ふをいづくの程にやと思ひしを今日此柳のかげにこそ立より侍りけれ 田一枚うへて立さる柳かな

殺生石は温泉の出る山陰にあります。石の毒気がまだ消えず、蜂や蝶の類が、真砂の色が見えないほど重なって死んでいます。

また、「清水流るる」のあの柳は蘆野の里にあって、田の畔に残っています。この土地の郡守、戸部何某(なにがし)が、この柳をお見せしたいと折々おっしゃっていたので、どのあたりだろうと思っていましたが、今日ちょうどこの柳の陰に立ち寄ることになりました。

田を一枚 / 植え終えてから立ち去る柳よ

夾注 2

一本なかるゝとのトアリ

異本には「なかるゝとの」とあります。

け一本つトアリ

「け」は異本に「つ」とあります。