敵戦計敵戰計
1第七計 無中生有 — 無い中から有るものを生み出す
誑也,非誑也,實其所誑也。少陰、太陰、太陽。
欺きであって、欺きではない。欺いたことを実際のものにするのである。少陰から太陰へ、そして太陽へ。
夾注 1
無而示有,誑也。誑不可久而易覺,故無不可以終無。無中生有,則由誑而真,由虛而實矣,無不可以敗敵,生有則敗敵矣,如:令狐潮圍雍丘,張巡縛嵩為人千餘,披黑夜,夜縋城下,潮兵爭射之,得箭數十萬。其後復夜縋人,潮兵笑,不設備,乃以死士五百砍潮營,焚壘幕,追奔十餘里。
無いのに有るように見せるのが欺きである。欺きは長く続かず見破られやすいから、無は最後まで無のままであってはならない。無い中から有るものを生み出せば、欺きから真へ、虚から実へと変わる。無では敵を破れないが、有るものを生み出せば敵を破れる。たとえば令狐潮が雍丘を囲むと、張巡は藁を束ねて人の形を千余り作り、黒い衣を着せて夜に城の下へ吊り下ろした。潮の兵は争ってこれを射ち、矢を数十万も得た。その後また夜に人を吊り下ろすと、潮の兵は笑って備えをしなかった。そこで決死の兵五百をもって潮の陣営に斬り込み、塁と幕を焼き、十余里も追いかけた。
2第八計 暗渡陳倉 — ひそかに陳倉を渡る
示之以動,利其靜而有主,益動而巽。
動きを見せて、敵が静かに守りを固めている隙を利用する。「益」すなわち増すことが動き、遜るのである。
夾注 1
奇出於正,無正不能出奇。不明修棧道,則不能暗渡陳倉。昔鄧艾屯白水之北;姜維遙廖化屯白水之南,而結營焉。艾謂諸將曰:「維令卒還,吾軍少,法當來渡,而不作橋,此維使化持我,令不得還。必自東襲取洮城矣。」艾即夜潛軍,徑到洮城。維果來渡。而艾先至,據城,得以不破。此則是姜維不善用暗渡陳倉之計;而鄧艾察知其聲東擊西之謀也。
奇は正から出るもので、正がなければ奇を出すことはできない。表立って棧道を修めなければ、ひそかに陳倉を渡ることはできない。昔、鄧艾が白水の北に駐屯すると、姜維は廖化に命じて白水の南に陣営を結ばせた。鄧艾は諸将に言った。「姜維が急に戻ってきたが、我が軍は少ない。定石なら渡って来るはずなのに、橋を架けない。これは姜維が廖化に我らを引きとめさせ、戻れなくしようとしているのだ。姜維はきっと東から洮城を襲い取るだろう。」鄧艾はすぐ夜に軍をひそかに動かし、まっすぐ洮城に至った。姜維は果たして渡って来たが、鄧艾が先に着いて城を守ったので、破られずに済んだ。これは姜維が暗渡陳倉の計をうまく使えず、鄧艾がその声東撃西の謀を見抜いたということである。
3第九計 隔岸観火 — 岸を隔てて火を眺める
陽乖序亂,陰以待逆。暴戾恣睢,其勢自斃。順以動豫,豫順以動。
表の秩序が乱れたなら、ひそかにその背きを待つ。荒々しく勝手にふるまえば、その勢いは自ずと倒れる。順に従って動くのが豫であり、豫は順に従って動く。
夾注 1
乖氣浮張,逼則受擊,退則遠之,則亂自起。昔袁尚、袁熙奔遼東,眾尚有數千騎。初,遼東太守公孫康,恃遠不服。及曹操破烏丸,或說曹遂征之,尚兄弟可擒也。操曰:「吾方使斬送尚、熙首來,不煩兵矣。」九月,操引兵自柳城還,康即斬尚、熙,傳其首。諸將問其故,澡日:「彼素畏尚等,吾急之, 則並力; 緩之,則相圖,其勢然也。」或曰:此兵書火攻之道也,按兵書《火攻篇》前段言火攻之法,後段言慎動之理,與隔岸觀火之意,亦相吻合。
そむいた気が浮き上がって張り出すとき、追い詰めれば反撃を受け、退いて遠ざかれば乱が自ずと起こる。昔、袁尚と袁熙が遼東へ逃げたが、その手勢はなお数千騎あった。もともと遼東太守の公孫康は遠いことを頼みにして服従しなかった。曹操が烏丸を破ると、ある者がこの機に征けば袁氏兄弟を捕らえられると勧めた。曹操は言った。「私は今まさに公孫康に袁尚・袁熙の首を斬って送らせようとしている。兵を煩わすことはない。」九月、曹操が柳城から兵を返すと、公孫康はすぐ袁尚・袁熙を斬ってその首を届けた。諸将がその理由を問うと、曹操は言った。「彼らはもとより袁尚らを恐れていた。私が追い詰めれば力を合わせ、緩めれば互いに食い合う。形勢がそうなのだ。」ある人は言う。これは兵書の火攻の道である。兵書の火攻篇は、前段で火をもって攻める法を言い、後段で慎んで動く理を言うので、岸を隔てて火を眺める意と互いに合っている。
4第十計 笑裏蔵刀 — 笑いの中に刀を隠す
信而安之,陰以圖之,備而後動,勿使有變。剛中柔外也。
信じさせて安心させ、ひそかに図り、備えてから動いて、変事が起こらないようにする。内は剛く、外は柔らかいのである。
夾注 1
兵書云:「辭卑而益備者,進也;……無約而請和者,謀也。」故凡敵人之巧言令色,皆殺機之外露也。宋曹瑋知渭州,號令明肅,西夏人憚之。一日瑋方對客奕棋,會有叛誇數千,亡奔夏境。堠騎(騎馬的探子)報至,諸將相顧失色,公言笑如平時。徐謂騎日:「吾命也,汝勿顯言。」西夏人聞之,以為襲己,盡殺之。此臨機應變之用也。若勾踐之事夫差,則意使其久而安之矣。
兵書に「言葉が低くなりながら備えを増すのは、進もうとしているのである。……約束もなく和を請うのは、謀があるのである」とある。だから敵の巧みな言葉と愛想のよい顔つきは、すべて殺意が外に漏れ出たものである。宋の曹瑋が渭州を治めていたとき、号令が明らかで厳しく、西夏の人々は彼を恐れた。ある日、曹瑋が客と碁を打っていると、ちょうど叛いた兵数千が西夏の境へ逃げ込んだ。斥候の騎兵の報せが届くと、諸将は互いに顔を見合わせて色を失ったが、公は平生のように笑い語り、ゆっくりと騎兵に言った。「私の命令だ。表立って言うな。」西夏の人々はこれを聞いて、自分たちを襲いに来たのだと思い、ことごとく殺してしまった。これは機に臨んで変に応じた用い方である。勾践が夫差に仕えたようなことは、わざと長く安心させたのである。
5第十一計 李代桃僵 — 李が桃に代わって倒れる
勢必有損,損陰以益陽。
形勢に必ず損じるところがあるなら、陰を損じて陽を益す。
夾注 1
我敵之情,各有長短。戰爭之事,難得全勝,而勝負之訣,即在長短之相較,乃有以短勝長之秘訣。如以下駟敵上駟,以上駟敵中駟,以中駟敵下駟之類:則誠兵家獨具之詭謀,非常理之可測也。
我と敵の事情には、それぞれ長所と短所がある。戦いで全勝を得るのは難しく、勝敗の秘訣は長短を互いに比べるところにあり、そこに短いものによって長いものに勝つ秘訣がある。下等の馬で上等の馬に当たり、上等の馬で中等の馬に当たり、中等の馬で下等の馬に当たるといった類は、まことに兵家だけが持つ詭謀であって、並の理では測れない。
6第十二計 順手牽羊 — 通りがかりに羊を引いていく
微隙在所必乘;微利在所必得。少陰,少陽。
わずかな隙でも必ず乗じ、わずかな利でも必ず得る。少陰であり、少陽である。
夾注 1
大軍動處,其隙甚多,乘間取利,不必以勝。勝固可用,敗亦可用。
大軍が動くところには隙がきわめて多い。隙に乗じて利を取るのであって、必ず勝たなければならないわけではない。勝っているときにも使え、負けているときにも使える。