いにしえの文 › 東国李相国集(東国の李相国の文集) › 前集 巻10

辛酉の年の五月、草堂に慎ましく過ごして事がなく、園を手入れし地を掃く合間に杜甫の詩を読み、成都草堂の詩韻を用いて閑かな楽しみを記す辛酉五月。草堂端居無事。理園掃地之暇。讀杜詩。用成都草堂詩韻。書閑適之樂。

東国李相国集(東国の李相国の文集) 東國李相國集 · 李奎報(イ・ギュボ) · 1241年(高麗・高宗28年)編 · 1251年に改め補う · 段落 5 · 漢字 280字 · 朗読 3分

東国李相国集(東国の李相国の文集) 前集 巻10 高麗の李奎報が生涯に作った文章を、子の李涵が1241年に編んで刻み、孫の李益培が1251年に改め補った文集。詩と賦、王に奉った表と箋、寺と塔に付けた記、碑銘と墓誌銘、手紙と序文、そしてモンゴルが攻め入った時に行き交った国書までが収められている。高句麗の始祖を歌った「東明王篇」が前集の巻3にあり、酒と琴と詩を友として自ら白雲居士と名のった人の一日一日が後集に残っている。書は、彼が目を病んで筆を置く最後の詩と、彼が死んだ後に他の人が作って付けた誄書・墓誌銘で閉じる。

懶惰無心賦兩都。况堪著論效王符。緬思潘閬三峯好。且任陳蕃一室蕪。小塢移花邀客看。比隣有酒遣兒沽。何須點檢人間事。出處悲歡命矣夫。

怠けていて「両都の賦」を作る気もない まして論を著して王符に倣えようか はるかに潘閬の三峰のよさを思い また陳蕃の一室が荒れるにまかせる 小さな堤に花を移して客を招いて見せ 隣に酒があれば子どもを遣って買わせる どうして人の世の事を点検する必要があろう 出るも退くも、悲しみも喜びも天命なのだ

夾注 1

五首

五首。

欲歸江郡詠汀蘋。尙滯京華失鬢春。自號灌畦閑老圃。皆呼傲世一高人。談筵落屑空驚客。睡榻鳴雷幾撼隣。酒渴時時須底物。櫻桃子熟摘嘗新。

川辺の郡へ帰って汀の蘋を詠もうと思いながら なお都にとどまって、鬢の春を失った 自分では畝に水を注ぐ閑かな老いた園丁と名のるのに 人はみな世を傲る一人の高士と呼ぶ 談話の席に落ちる木屑がむなしく客を驚かせ 寝床に鳴る雷が幾度隣を揺るがしたことか 酒の渇きには、折おり何が要るのか 桜桃の実が熟したので、摘んで新しい味を試す

不把余愚自汚溪。幽栖粗免宦途迷。披襟快却風來北。隱几從敎日向西。世味淺深曾染指。人生得喪已忘蹄。半窓林影搖森翠。讀罷書頭鷰落泥。

私の愚かさで谷川を汚すことはせず 奥深く棲んで、どうにか宦路の迷いを免れた 襟をはだければ快く北から風が来て 脇息に寄りかかり、日が西へ傾くにまかせる 世の味の浅い深いは、かつて指に浸して舐めてみた 人生の得失には、もう筌も蹄も忘れた 半ば開いた窓に林の影が揺れて緑が深く 読み終えた書物の上に燕が泥を落とす

半卷踈簾獨倚欄。雨聲淙瀉劇驚湍。橫雲尙自暗千陣。落日不知餘幾竿。遇客只須浮大白。學仙何苦鍊還丹。爲言隣叟好來往。除却閑談逸老難。

粗い簾を半ば巻き上げ、ひとり欄干に寄りかかると 雨の音がざあざあと注いで、驚くような早瀬よりも激しい 横たわる雲はなお千の陣を暗くし 沈む日はあと幾竿残っているのか分からない 客に会えば、ただ大杯を傾ければよく 仙を学ぶのに、どうして苦労して還丹を練ろうか 隣の老人に言っておく、たびたび行き来しようと 閑かな語らいを除いては、老いを楽しむのは難しい

古來達士貴知微。田園將蕪何日歸。莫問纍纍兼若若。不曾是是况非非。墮車醉者只全酒。把甕丈人寧有機。禦寇南華如可作。吾將問道一摳衣。

昔から事に通じた士は、兆しを知ることを貴んだ 田園が荒れようとしているのに、いつの日帰るのか たらたらと垂れた印綬のことなど問うな 正しいものを正しいとしたこともない、まして誤りを誤りとしようか 車から落ちても、酔った者はただ酒のおかげで無事であり 甕を抱える老人に、どうしてからくりがあろう 列禦寇と南華の人がもし生き返るなら 私は道を問いに、裾をからげて進み出よう