常侍の閔湜に差し上げる文上閔上侍湜書
月日。某官某奉書于騎省學士閣下。昨者事有必關啓閣下者。造門納謁。蒙閣下欣然迎迓。賜以顔色。尋置酒酣暢。極歡而罷。方從容笑談間。再三目予曰。士當以謙恭畏愼爲志。近世有詩人林椿者。恃才傲物。竟不登一第。至窮餓而死。觀子之才。不後林生。常謙恭卑損。略無怠傲之色。又相貌充澤。必當遠到者。一言慰藉。有重千金。予非木腸。能不感泣。但念僕雖若怠傲者。其呈露于尊長之前。難矣。矧僕嘗竊怪挾文而自傲者曰。夫挾富貴之勢者。赫赫焉堂堂焉。其威足以服衆。其權足以制死生。故人其畏服奔走。俟命之不暇。孰肯議其是非哉。雖驕傲尙可。然要其終未有不自躓者。挾過人之力者。其拳勇足以脅制人物。雖倨且傲。莫有誰何者。然未有恃力而能長且久者也。況文章者。特一小伎耳。雖有錦腸繡肝奇麗之蘊。除知己外。非人人所敬而畏服者也。若以此自負。凌侮人物。必遭歐擊拉折之辱。非特此耳。其陷不測之禍亦審矣。是以。襧衡傲物。終敗身於黃祖。嵇康負氣。果見枉於鐘會。古之人類此者非一二。布在前史。炯若明鏡。然則凡鑑觀古人之成敗者。雖有所負。其謙恭畏愼。固出於自然。而如僕者。環顧一己。無一事可挾以爲怠傲者。雖折項俯地。不敢擡擧。縮縮然常若負大怍。固亦常理。而閣下有以此及予者。豈欲使予益痛折節。終保其身歟。愚雖不敏。敢不佩以周旋。書曰。謙受益慢招損。語曰。恭近於禮。遠恥辱也。此皆自甫學時。未嘗不習於耳熏於心者。加之閣下之曉喻若此。固當銘之座右。朝夕鑑戒。日繩其心而已。其遠到與未。皆天也命也。雖然。苟有知己如閣下者。手插羽翰。假以長風。則路亦何阻耶。不宣。某再拜。
某月某日、某の官の某は騎省の学士閣下に文を差し上げます。
このあいだ、必ず閣下に申し上げなければならない事があって門に伺って面会を願うと、閣下は喜んで迎えてくださり、顔色をやわらげて応じてくださいました。続いて酒席を設けて興じて飲み、たいへん楽しんでから席を終えました。静かに笑って話すあいだに、二度三度私を見て言われました。「士はまさに謙り恭しく、畏れ慎むことを志とすべきである。近ごろ林椿という詩人がいたが、才を頼んで人を侮り、ついに科挙に一度も上れず、窮して飢えて死ぬに至った。あなたの才を見れば林椿に劣らないのに、常に謙り恭しく、みずから下げて、少しも怠り傲る顔色がない。また顔かたちが豊かで潤っているから、必ず遠くまで至る人である。」
一言の慰めが千金より重いものでした。私も木の芯ではありませんから、どうして感じて泣かないでしょうか。ただ思うに、私がたとえ怠り傲る者であっても、それを高い方の前に現すことは難しいことです。
まして私は、かねて文を抱えてみずから傲る者を心のうちで不思議に思って、こう考えていました。富貴の勢いを抱えている人は輝かしく堂々として、その威が多くの人を圧するに足り、その権が死と生を主張するに足ります。だから人々は畏れて屈んで駆けつけ、言いつけを待つのに忙しいのですから、誰がその是非をただそうとするでしょうか。たとえ驕り傲っても、そうできます。しかしその終わりをただしてみれば、みずから倒れなかった人はありません。
人よりすぐれた力を抱えている人は、その拳と勇が人を脅して圧するに足りますから、たとえこわばって傲っても、誰も何とも言えません。しかし力を頼んで長く久しかった人はありません。
まして文とは、ひとえに小さな技にすぎません。錦のような腹と刺繍のような肝を持って、奇しく美しいものを蓄えたとしても、自分を認めてくれる人を除けば、人ごとに敬い畏れて屈するものではありません。もしこれでみずから誇って人を侮れば、必ず打たれ折られる辱めを受けるでしょうし、これだけでなく、測り知れない禍に落ちるのも明らかなことです。だから禰衡は人を侮って、ついに黄祖に身を失い、嵆康は気を自負して、ついに鍾会に無実のまま殺されました。昔の人のなかにこうした人が一人二人ではなく、過ぎた史書に散らばっていて、明るい鏡のようにはっきりしています。
とすれば、昔の人の成りと崩れを鏡として見る人は、たとえ自負するものがあっても、謙り恭しく、畏れ慎むことがもとよりおのずから出てくるでしょう。それなのに私のような者は、わが一身を見まわしても、抱えて怠り傲るに足る事が一つもありません。首を折って地を見下ろしてあえて上げられず、縮こまって常に大きな恥を負っているようであることが、もとよりまた当たり前のことです。それでも閣下がこのお言葉を私に及ぼされたのは、私にいよいよ努めて節を屈め、ついにその身を保たせようとされたのではありませんか。私は聡明ではありませんが、どうして身に帯びて従わないでしょうか。
「書経」に「謙れば加えられ、傲れば減らされることを招く」とあり、昔の言葉に「恭しさは礼に近いから、恥と辱めを遠ざける」とあります。これはみな、はじめて学んだときから耳に慣れ心に染まらなかったことのない言葉です。そこに閣下がこのように教えてくださるのですから、まさに座る席の右に刻んでおいて、朝に夕べに鏡として慎み、日々その心を正すだけです。
遠くまで至ることと至れないことは、みな天であり運命です。それでも、閣下のような私を認めてくれる方があって、手で翼を差し、長い風を貸してくださるなら、道がまた何で塞がりましょうか。
これでやめます。某は二度拝みます。