いにしえの文 › 東国李相国集(東国の李相国の文集) › 後集 巻2
衾の中で笑う衾中笑
東国李相国集(東国の李相国の文集) 後集 巻2 高麗の李奎報が生涯に作った文章を、子の李涵が1241年に編んで刻み、孫の李益培が1251年に改め補った文集。詩と賦、王に奉った表と箋、寺と塔に付けた記、碑銘と墓誌銘、手紙と序文、そしてモンゴルが攻め入った時に行き交った国書までが収められている。高句麗の始祖を歌った「東明王篇」が前集の巻3にあり、酒と琴と詩を友として自ら白雲居士と名のった人の一日一日が後集に残っている。書は、彼が目を病んで筆を置く最後の詩と、彼が死んだ後に他の人が作って付けた誄書・墓誌銘で閉じる。
人間可笑事頻生。晝日情多笑未遑。半夜衾中潛自笑。殷於手拍口兼張。
世の中には笑うべきことがしきりに起こるが 昼のうちは心が忙しくて笑う暇もない 夜半に衾の中でひそかにひとり笑うと 手を打ち口を開けて笑うよりも賑やかだ
衾中所笑雖非一。第一呵呵孰最先。文拙平時遲澁者。揮毫示捷貴人前。
衾の中で笑うことは一つではないが 第一に大笑いするのは、何がいちばん先か 文が拙くてふだんは遅く滞っていた者が 貴人の前では筆を振るって速いふりを見せることだ
笑中第二又誰是。爲吏稍貪深自秘。一物入門人盡知。對人好說淸於水。
笑いのうちの第二はまた誰か 吏となって少し貪りながら、深く隠している者だ 物一つが門に入っても人はみな知っているのに 人に向かっては水より清いと言うのを好む
笑中第三女不颺。鏡裏自看難自識。有人報導你顔姝。妄擬正妍多作色。
笑いのうちの第三は、顔の美しくない女だ 鏡の中の自分を見ても、みずから知ることができず 誰かが「あなたの顔は美しい」と告げると みだりに本当に美しいと思いこみ、しきりに化粧をする
夾注 1
作一作喜。
「作」はある本では「喜」となっている。
笑中第四是予身。涉世無差僥倖耳。直方迂闊人皆知。自謂能圓登此位。
笑いのうちの第四はこのわたしの身だ 世を渡って誤りがなかったのは僥倖にすぎない 直く方で世事にうといことを人はみな知っているのに みずからは円くふるまってこの位に登ったと思っている
笑中第五是浮屠。邂逅佳人心已寄。目送飛鴻佯不看。故爲灰冷無心士。
笑いのうちの第五は僧だ 美しい人に出会えば心はすでに寄せているのに 目は飛ぶ鴻を送って、わざと見ないふりをし ことさらに灰のように冷えた無心の士をよそおう