前の湖南観察巡官、裴璙のための啓前湖南觀察巡官裵璙啓
1三十口の孤りの者たちのために散職を請って
右件人。是某座主侍郞再從弟。某去乾符三年冬。到湖南。起居座主侍郞之時。見於諸院弟兄中。偏所記念。自數年繼遭剽劫。生計蕩盡。骨肉凋零。久在江南。近投常府。願披情懇。泣告尊慈。駐留多時。不幸疾苦。遂且扶持發去云。欲逕往襄陽。迎接侍郞。今得書云行至滁州。前去未得。道途旣阻。溝壑是虞。況乃孤孀三十餘口。更無産業。未卜定居。伏緣某家寄日邊。路踰天外。杳無來信。固絶他圖。旣無寸土以分耕。寧有尺波而假潤。是以不量僭越。輒具薦論。命懸沸鼎之中。目斷台階之下。非不知捋虎鬚之險。非不知探龍頷之難。但緣旣忝門生。豈論賓貢。鴛鸞之與螻蟻。感恩皆同。多士之與遠人。報德何異。伏乞太尉相公念以程窮計盡。愍其柱促聲哀。特賜於廬壽管內場院。或堰埭中。補署散職。所冀月有俸入。便獲安家。裵璙卽自到襄州。令弟璹仰副驅策。不度涯分。浼瀆尊嚴。下情無任感泣兢懼之至。
右の件の人は、某の座主侍郎の再従弟です。某は去る乾符三年の冬、湖南に到って座主侍郎に起居を伺ったとき、諸院の弟兄の中で見て、とりわけ記し念うところです。ここ数年続けて剽め劫われることに遭って、生計は蕩き尽き、骨肉は凋み零ち、久しく江南にいましたが、近ごろこの府に身を投じて、情の懇ろを披いて、尊い慈しみに泣いて告げたいと願っていました。駐まり留まること多くの時を経て、不幸にも疾いと苦しみに遭い、ついにひとまず扶け持たれて発ち去り、まっすぐ襄陽に往って侍郎を迎え接ぼうとした、と言います。いま書を得ますと「滁州まで行ったが、これより前に進めない。道と途はすでに阻まれ、溝と壑が虞られる」とあり、まして孤りの孀が三十余口もいて、ほかに産業もなく、定まった居もまだ卜していないとのことです。伏して、某は家が日の辺りに寄り、路が天のそとを踰えて、杳として来る信もなく、まことに他の図りが絶えていますので、寸ばかりの土もなくて分け耕すこともできず、どうして尺ばかりの波があって潤いを借せましょう。ですから僭り越えることを量らずに、たちまち薦めと論を具えます。命は沸る鼎の中に懸かり、目は台階の下に断たれます。虎の鬚を捋る険しさを知らないのではなく、竜の頷を探る難しさを知らないのでもありませんが、ただ、すでに門生を分不相応に受けたのですから、どうして賓貢を論じましょう。鴛や鸞と、螻や蟻とで、恩に感じることはみな同じであり、多くの士と遠い人とで、徳に報いることが何で異なりましょう。伏して乞いますに、太尉相公は、程が窮まり計が尽きたことを念われ、その柱が促まり声が哀しいことを愍れまれて、特に廬州・寿州管内の場院、あるいは堰と埭の中に、散職を補い署することを賜ってください。冀うところは、月ごとに俸の入りがあって、すぐに家を安んずることです。裴璙はすぐみずから襄州に至り、弟の璹が仰いで駆り策たれることに副います。涯りと分を度らず、尊厳を浼し瀆しますので、下の情は感じ泣き、兢み懼れる至りに堪えません。
夾注 1
原文に「州」がないので、「常府」をこの淮南府と見て訳した。地名の常州と読む道もある。 ― 訳者