いにしえの文 › 懲毖録(過ちを懲らし後の憂いを慎む記録) › 巻15 軍門謄錄

從事官に申し渡した、まさに行うべき事どもの条分付從事官應行事宜條

懲毖録(過ちを懲らし後の憂いを慎む記録) 懲毖錄 · 柳成龍(リュ・ソンリョン) · 1633年刊行(壬辰倭乱の後に著す) · 段落 10 · 漢字 1,224字 · 朗読 9.9分

懲毖録(過ちを懲らし後の憂いを慎む記録) 巻15 軍門謄錄 壬辰倭乱が終わった後、領議政の柳成龍が自らの目で見たものを記して残した記録。「過ぎたことを懲らして後の憂いを慎む」という意で名を付けた。戦争がどのように始まり、朝廷が何を見落としたかを言い逃れなく記した。李舜臣を推挙したこと、明の軍とのいざこざ、民が経た惨状がそのまま収められている。

所管黃海平安等道應行事意關後錄相考擧行後牒報

受け持って治める黃海・平安などの道で、まさに行うべき事の趣旨を後に記すので、互いに照らし合わせて執り行った後に報せよ。

一京畿軍糧方急魚鹽急速上送仍從便區處使爲永久之利

一、京畿の軍糧がまさに急であるので、魚と塩を急ぎ上げ送れ。引き続き便宜に従って処理し、永く利となるようにせよ。

一黃海道被抄操鍊軍人外亦有軍功受職之人及他閒散武士出身之退居鄕曲者才人山尺之類皆當網羅收拾各於其中分隊伍定統屬行其惠澤得其歡心明其約束然後臨急易於調發與被抄軍人合勢掎角此爲上束與平安道一樣施行

一、黃海道で抜かれて操り習う軍人のほかにも、軍功で職を受けた人、そのほか閑散の武士で出身して田舎に退き住む者、才人や山尺の輩がある。みなまさに網を張るように収め集めよ。それぞれその中で隊伍を分け、統べ属するところを定めて恵みを施してその心を喜ばせ、その約束を明らかにすべきである。その後にこそ急な時に徴し発しやすく、抜かれた軍人と力を合わせて角のように挟み持つことができるので、これが上策である。平安道と同じように施行せよ。

夾注 1

底本は「此爲上束」であるが、「上策」の誤りと見る。

一兵之本在農雖事變搶攘而務農則不可少忽近來人心善動民無固志風聲鶴唳皆爲失措或散其家業或廢其農務分散他處賊未至而先爲死亡者比比有之此意各別申勅守令曉諭民間無得輕動其中如有造作訛言搖亂人心乘時射利者當以重律治之掛榜知委

一、兵の本は農にある。たとえ事変で騒がしくとも、農に努めることは少しも忽せにできない。近ごろ人心がよく揺れて民に堅い志がなく、風の音や鶴の声にもみな身の置き所を失う。あるいはその暮らしを散らし、あるいはその農を廃して他所へ散り、賊が至る前に先に死ぬ者がしばしばある。この趣旨を格別に守令に重ねて申し渡し、民間を諭して軽々しく動かないようにせよ。そのうち、偽りの言を作り出して人心を揺り乱し、時に乗じて利を狙う者があれば、まさに重い法で治めるので、榜を掲げて知らせよ。

一出站刷馬之弊已爲通融出米民怨少紓云依前日分付各別申勅勿令中廢渾雜更生弊端且聞金郊察訪勤察職事云各站之事使之專委檢勅如有弊端則當責察訪知委

一、站に出て馬を徴発する弊は、すでに事情に合わせて米を出させて民の怨みが少し解けたという。先日申し渡したとおり格別に重ねて申し渡し、中途で廃れて入り混じるために、ふたたび弊が生じないようにせよ。また聞くに、金郊の察訪が自分の職務を勤めて調べるとのことなので、各站の事は彼に専ら委ねて検め戒めさせよ。もし弊があれば、まさに察訪を責めるので、このとおり知らせよ。

一山城之役旣不可一時幷擧又不可廢弛不爲其要最須得其形勢控扼之處而據之然後用力少而收功多矣蓋一道有一道之形勢一國有一國之形勢得其形勢者勝失其形勢者敗如漢人所謂守白馬之津拒飛狐之又塞成臯之險者是也黃海道形勢一路則自平山達於京畿開城府一路則由兎山谷山遂安而達於成川其中必有十分形勢可據之地更須遍訪土人之有識者參以從事官眼同條列牒報如猪灘一帶形勢不須著意審察平山最爲直路要害人言山城形勢不甚好然古人築城之意必非徒然親審牒報瑞興山城則前行移已盡第未知府使作用如何耳平安道形勢一樣類推而得之安州城子進築事亦檢勅施行

一、山城を築く役は、すでに一時に併せて起こすことができず、また打ち捨てて行わないわけにもいかない。その要めは、必ず形勢が要路を押さえる所を得て拠った後にこそ、力は少なく用いて功を多く収めることにある。おおむね一つの道には一つの道の形勢があり、一つの国には一つの国の形勢がある。その形勢を得た者は勝ち、その形勢を失った者は負ける。漢の人がいわゆる白馬の津を守り、飛狐の塞を拒ぎ、成臯の険を成すというのがこれである。

黃海道の形勢は、一つの路は平山から京畿の開城府に至り、一つの路は兎山・谷山・遂安を経て成川に至る。その中に必ず十分に形勢が良く、拠るに足る地があるであろう。あらためて必ず土地の人のうち識のある者をあまねく訪ね、從事官と目を同じくして条ごとに並べて報せよ。猪灘一帯の形勢のようなものは、強いて意を向けて調べるまでもない。平山が最も直路の要害である。人々は山城の形勢がそれほど良くないと言うが、昔の人が城を築いた意は必ず徒らではなかったであろうから、自ら調べて報せよ。瑞興の山城は、先に送った文にすでにすべて述べたが、ただ府使がどうするのか分からないだけである。平安道の形勢も同じように推して得よ。安州の城を進めて築く事も、検め戒めて施行せよ。

夾注 1

底本は「拒飛狐之又塞」であるが、「飛狐之塞」の誤りと見る。

一黃海道常時入防於平安道軍人其數幾何而今之時存者幾何今西邊事勢日急或有更入黃海軍人防戍之議然此則徒爲民弊而實無益於禦敵無已則出其番價入送四方以爲募軍之資得軍必精而黃軍之弊亦除實爲兩便此事亦須參酌彼此之情牒報

一、黃海道から平時に平安道へ入って守っていた軍人はその数がいくらで、今残る者はいくらか。今、西辺の事の勢いが日ごとに急で、あるいは黃海道の軍人をふたたび入れて守りに立たせようという議がある。しかしこれはいたずらに民の弊となるだけで、賊を防ぐことには実に益がない。やめられないのであれば、その番の代価を出して四方へ入れ送り、兵を募る資とせよ。そうすれば得る兵が必ず精しく、黃海道の軍の弊も減るので、実に両方が便宜である。この事もまた、必ずあちらこちらの事情を参酌して報せよ。

一成川鎭管所屬各官於平安道六鎭管中最多其故何也自前朝時北虜入寇則必由此路而出於慈悲嶺以犯內地故特爲成川鎭管多其屬邑以爲遏截之計且是平壤大同江上流假使平壤且急而成川以大兵堅據上流與之掎角則平壤之勢自固。祖宗朝宏遠之慮周密如此昇平以後徒有鎭管之名而無其實故兵分勢弱守令亦無以紏合軍兵保守境土爲心者良可痛也成川府使金庭睦。朝廷以其善於鍊兵故由屬邑而陞爲鎭管實非偶然若使此人盡心職事修擧軍政不徒成川一邑之軍使其所屬皆成精勇之士則緩急得力非少更爲申勅且一樣知委於他鎭管視其屬邑之兵精麤與否特爲賞罰其鎭管使有成效

一、成川の鎭管に属する諸々の邑が平安道の六つの鎭管のうち最も多いのは、その理由が何であるか。前の朝の時から、北の虜が攻め入れば必ずこの路を経て慈悲嶺へ出て内地を犯した。そのため特に成川の鎭管に属する邑を多くして、遮り断つ計としたのである。またこの地は平壤の大同江の上流であるから、たとえ平壤が急であっても、成川が大きな兵で上流を堅く拠って共に角のように挟み持てば、平壤の勢いは自ずと堅くなる。祖宗の朝の大きく遠い配慮が、このように周密であった。

太平の後、いたずらに鎭管の名だけがあって、その実がなかった。そのため兵が分かれて勢いが弱く、守令もまた軍兵を糾合して自分の土地を守ることを心に置く者がないので、まことに痛ましい。成川府使金庭睦は、朝廷が彼が兵を習わせることに優れているとして属邑から昇らせて鎭管としたのだから、まことに偶然ではない。もしこの人に職務に心を尽くさせ、軍政を修め起こさせて、いたずらに成川の一邑の軍だけでなく、その属する邑がみな精しく勇ましい兵を成すようにすれば、急な時に力を得ることが少なくないであろうから、あらためて重ねて申し渡せ。また同じようにほかの鎭管にも知らせ、その属邑の兵が精しいか粗いかを見て、特にその鎭管を賞し罰して、効き目があるようにせよ。

一平壤順安肅川安州爲大路所經之邑聞蕭川最爲殘敗不能成形未知其故豈守令未得其人而然歟賦役獨重於他邑歟倉糓已盡糶糴不時民無所資歟於此必有其故矣須知其病源而改之然後民蒙實惠而完復有日矣以形勢言之則肅川前臨平野一望無際土地沃饒且連海有魚鹽之利苟能多設計䇿措備農牛田器因民之所無利而利之去其侵督之害則可以蘇殘矣如土民中識事者前主簿吳聃壽者亦是一邑之翹楚不妨招見問其民瘼且問邑中利病而圖爲蘇復之䇿與監司一樣經紀必期安集

一、平壤・順安・肅川・安州は大きな路が通る邑である。聞くに肅川が最も弱り崩れて形を成せないとのことなので、その理由が分からない。どうして守令が適した人を得ずにそうなのか、賦役がほかの邑より独り重いのか、倉の穀がすでに尽き、出し入れが時を失って民に頼るところがないのか。ここに必ずその理由があるであろう。必ずその病の根を知って改めた後にこそ、民が実の恵みを被り、まるごと回復する日があるであろう。

形勢で言えば、肅川は前に広い野を臨んでひと目に果てがなく、土地が肥え饒かで、また海に続いて魚と塩の利がある。まことに計策を多く設けて農の牛と農具を調え与え、民が利とするところに従って利し、侵し督する害を除けば、弱りを蘇らせることができる。土地の民のうち事を知る者で前主簿吳聃壽のような人は、やはり一つの邑の抜きん出た人であるから、呼び見て民の苦しみを問い、また邑の中の利と病を問うて、蘇らせ回復する策を図っても差し支えない。監司と同じように経営して、必ず安らかに集まり住むようにすることを期せよ。

夾注 1

底本は「聞蕭川最爲殘敗」であるが、「肅川」の誤りと見る。

一江邊一帶城池器械軍糧兵卒及邊將稱職不稱職者幷皆檢察詢訪且勅兵使必於合氷前汲汲措置可爲之事力未自辦者申報於軍門逐一處置其中炮樓之設最爲守城善䇿已設處合宜與否未設處隨便指授漸次成就且以大炮常川習放無復廢弛

一、江辺一帯の城池・器械・軍糧・兵卒と、邊將が職に適うか適わないかを併せてみな調べ、問え。また兵使を戒めて、必ず氷が凍る前に急ぎ処置させよ。行うに足る事なのに自分の力で調えられないものは軍門に申し報せれば、一つ一つ処置しよう。そのうち炮樓を設けることが城を守る最も良い策である。すでに設けた所は宜しいかどうかを見、まだ設けていない所は便宜に従って指示し、次々に成し遂げさせよ。また大砲を常に放って習わせ、ふたたび緩み廃れることのないようにせよ。