いにしえの文 › 懲毖録(過ちを懲らし後の憂いを慎む記録) › 巻16 軍門謄錄

咸鏡道の巡察使と南道・北道の兵使に送った文移咸鏡道巡察使南北道兵使文

懲毖録(過ちを懲らし後の憂いを慎む記録) 懲毖錄 · 柳成龍(リュ・ソンリョン) · 1633年刊行(壬辰倭乱の後に著す) · 段落 1 · 漢字 593字 · 朗読 4.9分

懲毖録(過ちを懲らし後の憂いを慎む記録) 巻16 軍門謄錄 壬辰倭乱が終わった後、領議政の柳成龍が自らの目で見たものを記して残した記録。「過ぎたことを懲らして後の憂いを慎む」という意で名を付けた。戦争がどのように始まり、朝廷が何を見落としたかを言い逃れなく記した。李舜臣を推挙したこと、明の軍とのいざこざ、民が経た惨状がそのまま収められている。

遠方殘民兵火之後百役叢集怨苦流散在在皆然本道去京師絕遠凡民間繁瘼未能詳知姑以所聞言之則南北道出身武士勿論新舊入防於江邊每年二月入防十月罷防農時不得顧其農業因以流散者甚多云或以爲道內武士分爲四番相遞入防以休其力則可免倒懸之苦云事勢便否民情所願詳察牒報北道六鎭及官鹽販賣之處似當從市直增减其價而近日則鹽軍價勒定糓四斗民亦苦之云亦爲相考變通本道軍功人等自備糧食長在赴防之中恕苦極天自悔曾得軍功官屬則願仍爲官屬私賤則願仍爲私購怨聲嗷然皆以爲軍功爲害身之資自今雖有事變必無爲國家出身立功之人極爲寒心髮通之策雖未知何在而坐視不救亦所難忍或以爲立防之時餉以官糧以除自備之弊此則官力不足難可施行惟當量其往來道里遠近疎其番次防歇時則使之在家作農合氷防緊之時相遞赴防則亦可有休息之時稍似便宜急速商量處置方今西北之憂日甚一日我國創殘之餘夾於兩强寇之間非兵無以制敵非民無以衛國此不待智者而可知奈何邊將守令之中識此者少縱恣虐民猶踵前習使邊上民夷之心日益離散誠可痛心而縱有善䇿無可施之路本道百分申勅屏黜貪殘罷軟者不使留爲民害而積年弊痼之事次第改革民情順服則邊圉自固矣北方之民寒無所着只以養狗衣皮爲大利而邊將守令每於胡人宴享之時收取士兵之狗殺數百餘口旣取其肉而幷没其皮云肉則宴享胡人無他辦出之處不得已爲之皮則可以還給而幷爲取之則土兵之無衣者何以掩身今後一切嚴禁一一還給本主邊將敢有私取一張者輒以重罪論斷事幷爲知委施行

遠い地の衰えた民は、兵火を経た後あらゆる役が寄り集まって、怨み苦しみ散ることが所々でみなそうである。本道は京師からきわめて遠いので、民間の煩わしい病弊を詳しく知ることができない。まず聞いたところで言おう。

南道・北道の出身の武士が、新しく入った者も古い者も分けることなく江辺に入って守るが、毎年二月に入り十月に終える。農の季節に自分の農を顧みられず、これによって散る者がはなはだ多いという。あるいは道内の武士を四つの番に分けて互いに替わって入って守らせ、その力を休ませれば、逆さに吊られた苦しみを免れることができるという。事の勢いが便宜かどうかと、民の願うところを詳しく調べて報せ。

北道の六鎭と官の塩を売る所は、まさに市の値に従って値を加え減らすべきであるようなのに、近ごろは塩の値を穀四斗に無理に定めて、民もまた苦しんでいるというので、これもまた照らし合わせて融通をつけよ。

本道で軍功を立てた人たちが自ら糧を調えて常に守りに出ているので、怨みと苦しみが天に届く。かつて軍功を得たことを自ら悔いて、官属はそのまま官属であることを願い、私賤はそのまま私賤であることを願い、怨む声が騒がしく、みな軍功が自分の身を害する元手になると言う。今より後、たとえ事変があっても、国のために進み出て功を立てる人が必ずいないであろうから、きわめて心寒い。融通をつける計がどこにあるのか分からないとはいえ、座して見て救わないことも忍びがたいところである。あるいは守りに立つ時に官の糧で食わせて自ら調える弊を除こうと言うが、これは官の力が足りず施行しがたい。ただまさに行き来する里数の遠近を計って番次を疎らにし、守りが閑かな時には家で農をさせ、氷が凍って防ぎが緊しい時に互いに替わって出させれば、やはり休む時があって少し便宜であるようなので、急ぎ計って処置せよ。

まさに今、西北の憂いが日ごとに甚だしい。我が国が傷み衰えた余りに二つの強い寇のあいだに挟まれたので、兵がなければ敵を制することができず、民がなければ国を守ることができない。これは智者を待たずとも分かる。どうして邊將と守令のうちこれを知る者が少なく、恣に民を虐げることをなお前の習いのままにして、辺境の民と夷の心が日ごとにいよいよ離れ散るようにするのか。まことに心が痛むが、たとえ良い計があっても施す道がない。本道は百分申し渡して、貪り荒んだ者と柔弱な者を退け出して、留まって民の害とならないようにし、幾年も積もった宿痾の事を順に改め革めよ。民情が順に従えば、辺境は自ずと堅くなるであろう。

北方の民は寒くとも着る物がなく、ただ犬を飼ってその皮を着ることを大きな利としている。ところが邊將と守令が、いつも胡人を宴する時に土兵の犬を取り集めて数百余匹を殺し、その肉を取って併せて皮まで奪うという。肉は胡人を宴するのにほかに調える所がないのでやむを得ないとしても、皮は返すことができるのに併せて取れば、衣のない土兵が何で身を覆うであろうか。今より後、一切厳しく禁じ、一つ一つ本来の持ち主に返せ。邊將で敢えて一枚でも私かに取る者があれば、すぐ重い罪で論断する事を併せて知らせて施行せよ。

夾注 4

底本は「恕苦極天」であるが、「怨苦」の誤りと見る。

底本は「私賤則願仍爲私購」であるが、「私賤」の誤りと見る。

底本は「髮通之策」であるが、「變通」の誤りと見る。

「出身」は、武科に合格して仕える道に出た人を指す。