秦と項羽秦王昭襄據郩函
1秦の昭襄王が周をうかがう
○秦王 昭襄據郩函, 周之失序常窺伺, 名於挾輔因滅之, 都彼咸陽年乙巳.
秦王の昭襄は殽山と函谷関に拠って 周の乱れた秩序をつねにうかがい、 助けるという名を借りてついにこれを滅ぼし、 あの咸陽に都した。乙巳の年である。
夾注 2
姓嬴, 名稷.
姓は嬴、名は稷である。
以丙午爲元年, 水德. 下至子嬰, 凡六主, 合四十九年. 傳之大漢.
丙午の年を元年とし、水徳である。下って子嬰まで、全部で六人の君、合わせて四十九年で、大漢に伝えた。
2始皇が六国を併せる
漸强漸大至始皇, 終幷六國無疑畏.
次々に強く大きくなって始皇に至り、 ついに六国を併せて、疑いも恐れもなかった。
夾注 1
莊襄王之子, 名政, 字祖龍.
荘襄王の子で、名は政、字は祖龍である。
3李斯と趙高
斯高爲柄夫何爲.
李斯と趙高が権力の柄を握ったが、いったい何をしたのか。
4焚書坑儒
投棄俎豆陳鞭捶, 焚書坑儒煎生靈, 九土嗷嗷瘡入髓.
祭りの器は投げ捨てて鞭と笞を並べ、 書を焼き儒者を坑に埋めて生きた民を煎ったので、 九州は泣き叫び、病は骨の髄にまで入った。
5万里の長城
莫築防胡萬里城, 秦家歲月曾無幾.
胡を防ぐ万里の城など築くべきではなかった、 秦の家の歳月は、もともといくらもなかったのだから。
6陳勝と呉広
陳勝吳廣叫函關, 群雄蜂起爭攘臂.
陳勝と呉広が函谷関で叫ぶと、 群雄が蜂のように起こって腕をまくり争った。
7項王の一喝
龍馳虎走皆欲王, ○項王 叱吒俱風靡.
龍が駆け虎が走るように誰もが王になろうとしたが、 項王がひと声叱ると、みな風になびくようであった。
夾注 1
名籍, 字羽, 胡亥元年, 起兵.
名は籍、字は羽である。胡亥の元年に兵を起こした。
8山を抜く力
拔山蓋世氣力豪, 顧視鴻溝誰敢爾.
山を抜き世を覆う気力は豪であったから、 鴻溝を顧みて、誰が敢えて立ち向かおうか。
9漢と天下を分ける
與漢中分天下立, 强弱不同成敗易.
漢とともに天下を二つに分けて立ったが、 強弱が同じでなく、勝ち負けは入れ替わった。
10范増を捨てる
然王剜印棄范增, 取威定霸眞疏矣.
しかし王は印の角がすり減るほど手でいじって渡さず、范増まで捨てたので、 威を取り覇を定める道には、まことに疎かった。
夾注 1
王剜印 — 底本は「剜」だが、『史記』の「刓印」の故事として読んだ。底本のまま「印を刻んでおきながら渡さなかった」と読む道もある。― 訳者
11烏江の岸の涙
虞兮飮泣楚歌多, 霸業虛棄烏江涘.
虞よ、涙を飲むうちに楚の歌があたりに満ち、 覇業をむなしく捨てて烏江の岸辺で果てた。