後百済 — 甄萱加恩縣人阿慈介
1鳥が覆い虎が乳を飲ませる
加恩縣人阿慈介, 生得一兒業農圃, 置向田頭夫婦耘, 鳥來舒覆虎來乳.
加恩県の人である阿慈介が、 子を一人生んで農作りを業としていたが、 畑の端に寝かせて夫婦が草を取っていると、 鳥が来て翼を広げて覆い、虎が来て乳を飲ませた。
2才が人々のうちで抜きんでる
旣壯仕羅詣行間, 才力離倫性雄虎.
成長して新羅に仕えて陣に出ると、 才と力が人々のうちで抜きんでて、性質が雄々しく勇ましかった。
夾注 1
雄虎 — 底本は高麗の恵宗の名である武を避けて虎と書いているので、雄武、つまり強く勇ましいことをいう。― 訳者
3李氏の甄萱
姓本是李名甄萱, 承命出向南方戍.
姓はもと李であり名は甄萱で、 命を受けて南方の戍に出ていった。
4武珍城に旗を立てる
潛含大志伺時便, 啗士誘民常吐哺, 唐佋景福元壬子, 據虎珍城 初樹羽.
ひそかに大きな志を抱いて時の便を窺い、 士に食わせ民を懐けて、常に口の飯を吐き出してまで迎えたので、 唐の昭宗の景福元年の壬子に、 武珍城(光州)に拠って初めて旗を立てた。
夾注 2
今光州也.
今の光州である。
虎珍城 — 底本は避諱して武を虎と書いているので、武珍城をいう。― 訳者
5子の神剣が父を閉じ込める
兵强氣銳恣橫行, 名後百濟四十五, 有子不良將奈何, 其名神劍乃幽父.
軍は強く気勢は鋭く、思いのまま横行したので、 後百済と名づけたのが四十五年。 子が善良でなかったのを、これからどうしようか、 その名の神剣が父を閉じ込めた。
6金山寺を出てわが太祖のもとへ
金山佛殿戶誰開, 泰華千里當寸步, 淸泰三年丙申春, 偸渡碧江歸 我祖.
金山寺の仏殿の戸を誰が開けたのか、 泰山・華山のような千里を一歩ほどに思い、 清泰三年の丙申の年の春に、 青い川をひそかに渡ってわが太祖のもとに帰った。
7王の礼で慰める
對以王禮慰於朝, 往討賊子尸諸路.
王の礼で接して朝廷で慰め、 行って賊の子を討ち、道々に屍を並べた。
8血を吐いて死ぬ
臨薨歐血那可追, 美矣羅王知去就.
死に臨んで血を吐いたのだから、どうして取り返せようか。 美しいことである、新羅の王が去就を知ったことは。