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三略 — 上略三略 上略

武経七書(七つの兵法書)— 孫子を除いた六つ 武經七書 · 姜太公に仮託・黄石公に仮託・尉繚・呉起・司馬穰苴・李靖 · 戦国時代〜唐(紀元前4世紀〜7世紀) · 段落 33 · 漢字 2,109字 · 朗読 8.4分

武経七書(七つの兵法書)— 孫子を除いた六つ 三略 宋が武官を選ぶ教科書として定めた七つの兵書のうち、孫子兵法を除いた六つ。六韜は文王・武王が太公望に問う問答で、国の治めから車・騎兵・野戦・水渡りまで六十篇、三略は黄石公が張良に与えたという短い三篇、尉繚子は秦の前後の軍令と伍・什の編制を細かに記した二十四篇、呉子は呉起が魏の武侯に答えた六篇、司馬法は春秋以前の軍礼を伝える五篇、李衛公問対は唐の太宗と李靖が奇正・虚実・蕃漢・攻守をやり取りした三巻である。「兵は凶器である」、「人を至らせて人に引かれない」、「千章万句も、さまざまな方法で誤らせるというその一句を越えない」がここから出た。孫子兵法の次に読む兵家の残りの六つの流れを一か所に集めた。

1英雄の心を掴むことが主将の法

夫主將之法,務攬英雄之心,賞祿有功,通志于眾。故與眾同好,靡不成;與眾同惡,靡不傾。治國安家,得人也;亡國破家,失人也。含氣之類,咸願得其志。

主将の法は、英雄の心を掴み取ることに努め、功ある者に賞と禄を与え、志を多くの者に通じさせることである。だから多くの者と好むものを同じくすれば成らないことはなく、多くの者と憎むものを同じくすれば崩せないものはない。国を治め家を安らかにするのは人を得たからであり、国を亡ぼし家を破るのは人を失ったからである。息ある者はみな、その志を得たいと願っている。

2柔が剛を制し、弱が強を制する

《軍讖》曰:「柔能制剛,弱能制強。」柔者,德也。剛者,賊也。弱者,人之所助。強者,怨之所攻。柔有所設,剛有所施;弱有所用,強有所加。兼此四者,而制其宜。

『軍讖』にいう。「柔は剛を制することができ、弱は強を制することができる。」柔は徳であり、剛は賊である。弱い者には人の助けがあり、強い者には怨みの攻めが向かう。柔には立てるべき場があり、剛には用いるべき場があり、弱には用いるべき場があり、強には加えるべき場がある。この四つを兼ね備えて、その適いを制する。

3端と始めが見えなければ誰も知ることができない

端末未見,人莫能知;天地神明,與物推移;變動無常,因敵轉化;不為事先,動而輒隨。故能圖制無疆,扶成天威。康正八極,密定九夷。如此謀者,為帝王師。

端も始めも見えなければ、人は知ることができない。天地と神明は物とともに移り行くので、変わり動いて常がなく、敵に拠って変化し、事に先んじず、相手が動けばそのつど従う。だからこそ限りなく図り制し、天の威を支えて成し、八極を安らかに正し、九夷を静かに定めることができる。このように謀る者が帝王の師となる。

4広げれば四海に満ち、巻けば杯も満たさない

故曰:「莫不貪強,鮮能守微;若能守微,乃保其生。聖人存之,以應事機。舒之彌四海,卷之不盈杯。居之不以室宅,守之不以城郭。藏之胸臆,而敵國服。」

だからいう。「強さを貪らない者はないが、微かなものを守れる者はまれである。微かなものを守れたなら、その生を保つことができる。聖人はこれを胸に存して、事の機に応ずる。広げれば四海に満ち、巻けば杯も満たさない。これを置くのに家屋を用いず、これを守るのに城郭を用いない。胸のうちに蔵めておいて、敵国が服する。」

5ただ柔らかいだけなら削られ、ただ剛いだけなら亡びる

《軍讖》曰:「能柔能剛,其國彌光;能弱能強,其國彌彰。純柔純弱,其國必削;純剛純強,其國必亡。」

『軍讖』にいう。「柔にもなれ剛にもなれるなら、その国はいよいよ光る。弱にもなれ強にもなれるなら、その国はいよいよ顕れる。ただ柔でただ弱いだけなら、その国は必ず削られる。ただ剛でただ強いだけなら、その国は必ず亡びる。」

6賢者は腹心のように、民は手足のように

夫為國之道,恃賢與民,信賢如腹心,使民如四肢,則策無遣。所適如肢體相隨,骨節相救,天道自然,其巧無間。

国を治める道は、賢者と民に頼ることである。賢者を腹心のように信じ、民を手足のように使えば、策に落ちがない。向かうところはどこでも手足が互いに従い、骨と節が互いに助け合うようで、天の道のままにおのずとそうなり、その巧みさには隙がない。

7軍と国の要 — 多くの者の心を察して百の務めを施す

軍國之要,察眾心,施百務。危者,安之;懼者,歡之;叛者,還之;怨者,原之;訴者,察之;卑者,貴之;強者,抑之;敵者,殘之;貪者,豐之;欲者,使之;畏者,隱之;謀者,近之;讒者,覆之;毀者,復之;反者,廢之;橫者,挫之;滿者,損之;歸者,招之;服者,居之;降者,脫之。獲固,守之;獲阨,塞之;獲難,屯之;獲城,割之;獲地,裂之;獲財,散之;敵動,伺之;敵近,備之;敵強,下之;敵佚,去之;敵陵,待之;敵暴,緩之;敵悖,義之;敵睦,攜之;順舉,挫之;因勢,破之;放言,過之;四網,羅之。得而勿有,居而勿守,拔而勿久,立而勿取。為者則己,有者則士,焉知利之所在。彼為諸侯,己為天子。使城自保,令士自處。

軍と国の要は、多くの者の心を察して百の務めを施すことである。危うい者は安らげ、懼れる者は喜ばせ、背いた者は還らせ、怨む者は赦し、訴える者は調べ、低い者は貴くし、強い者は抑え、敵する者は除き、貪る者には豊かに与え、欲する者は使い、畏れる者は庇い、謀る者は近づけ、讒する者は覆し、毀す者には報い返し、叛く者は廃し、横暴な者は挫き、満ちた者は損じ、帰する者は招き、服する者は住まわせ、降る者は解き放つ。固い地を得たら守り、狭い要害を得たら塞ぎ、険しい地を得たら屯し、城を得たら分け与え、地を得たら裂いて与え、財を得たら散じ与える。敵が動けば窺い、敵が近づけば備え、敵が強ければ身を低くし、敵が安らいでいれば去り、敵が侮ってくれば待ち、敵が荒れていれば緩め、敵が道に背けば義をもって当たり、敵が睦んでいれば離し、順理に乗って挙がったものは挫き、勢いに乗じて破り、言葉を広めて咎を負わせ、四方に網を張って捕らえる。得ても我がものとせず、居ても守らず、抜いても長く留まらず、立てても取らない。為すのは自分だが、持つのは士である。どうして利の在りどころを気にかけよう。相手は諸侯となり、自分は天子となる。城には自ら保たせ、士には自ら身を置かせる。

8祖先を尊ぶ者は多いが、下の者に身を低くできる者はまれ

世能祖祖,鮮能下下。祖祖為親,下下為君。下下者,務耕桑,不奪其時;薄賦斂,不匱其財;罕徭役,不使其勞,則國富而家娛,然後選士以司牧之。

世に祖先を祖先として奉る者は多いが、下の者に身を低くできる者はまれである。祖先を奉るのは親としての情であり、下の者に低くするのは君としてのつとめである。下の者に低くするとは、耕作と養蚕に努めさせてその時を奪わず、租税を軽くしてその財を乏しくさせず、徭役をまれにして労を強いないことである。そうすれば国は富み家は楽しむ。そのうえで士を選んで、これを司り牧させる。

9英雄は国の幹、民は国の根

夫所謂士者,英雄也。故曰羅其英雄,則敵國窮。英雄者,國之幹;庶民者,國之本。得其幹,收其本,則政行而無怨。

いわゆる士とは英雄である。だから「英雄を網で集めれば、敵国は窮する」という。英雄は国の幹であり、民は国の根である。その幹を得てその根を収めれば、政が行われて怨みがない。

10礼を崇くし、禄を重くせよ

夫用兵之要,在崇禮而重祿。禮崇則智士至,祿重則義士輕死。故祿賢不愛財,賞功不逾時,則下力并,敵國削。夫用人之道,尊以爵,睹以財,則士自來。接以禮,勵以義,則士死之。

兵を用いる要は、礼を崇くし禄を重くすることにある。礼が崇ければ智ある士が来、禄が重ければ義ある士が死を軽んじる。だから賢者に禄を与えるのに財を惜しまず、功に賞するのに時を越えなければ、下の力が合わさり、敵国は削られる。人を用いる道は、爵で尊くし財で示せば士はおのずと来、礼で接し義で励ませば士は命を捧げる。

11一椀の酒を川に注ぎ、兵とともに飲む

夫將帥者,必與士卒同滋味,而共安危,敵乃可加,故兵有全勝,敵有全因。昔者,良將之用,有饋簞醪者,使投諸河,與士卒同流而飲。夫一簞之醪,不能味一河之水,而三軍之士,思為致死者,以滋味之及己也。

将帥は、必ず士卒と味を同じくし、安危をともにしてはじめて敵に当たることができる。だから兵に完き勝ちがあり、敵には完き崩れがある。昔、良将が兵を用いたとき、一椀の濁り酒を贈ってきた者があったので、それを川に注がせ、士卒とともに流れを飲んだ。一椀の濁り酒で一筋の川の水を美味くできるわけはないのに、三軍の士が死を願ったのは、その味が自分にまで及んだからである。

12軍幕が整わぬうちは将は疲れたと言わない

《軍讖》曰:「軍井未達,將不言渴。軍幕未辦,將不言倦。軍灶未炊,將不言飢。冬不服裘,夏不操扇,雨不張蓋。」是謂將禮。與之安,與之危,故其眾,可合而不可離,可用而不可疲,以其恩素蓄,謀素合也。故曰:蓄恩不倦,以一取萬。

『軍讖』にいう。「軍の井戸がまだ掘り当てられなければ、将は渇いたと言わない。軍幕がまだ整わなければ、将は疲れたと言わない。軍の竈がまだ飯を炊かなければ、将は飢えたと言わない。冬に皮衣を着ず、夏に扇を手にせず、雨に覆いを張らない。」これを将の礼という。ともに安らぎ、ともに危うくするので、その兵たちは合わせることはできても離すことはできず、用いることはできても疲れさせることはできない。その恩が平素から蓄えられ、謀が平素から合っているからである。だから「恩を蓄えて倦まなければ、一をもって万を取る」という。

13将は命令を引き返さない

《軍讖》曰:「將之所以為威者,號令也。戰之所以全勝者,軍政也。士之所以輕死者,用命也。故將無還令,賞罰必信,如天如地,乃可使人,士卒用命,乃可越境。」

『軍讖』にいう。「将が威となるのは号令であり、戦いが完き勝ちとなるのは軍政であり、士が死を軽んじるのは命に従うからである。だから将は命令を引き返さず、賞罰に必ず信があって、天のように地のようであってはじめて人を使うことができ、士卒が命に従ってはじめて境を越えることができる。」

14兵が老いれば将の威は立たない

夫統軍持勢者,將也。制勝敗敵者,眾也。故亂將不可使保軍,乘眾不可使伐人。攻城不可拔,圍邑則不廢。二者無功,則士力疲憊,士力疲憊,則將孤眾悖,以守則不固,以戰則奔北,是謂老兵。兵老,則將威不行。將無威,則士卒輕刑。士卒輕刑,則軍失伍。軍失伍,則士卒逃亡。士卒逃亡,則敵乘利。敵乘利,則軍必喪。

軍を統べ勢いを握るのは将であり、勝ちをつくり敵を敗らせるのは兵たちである。だから乱れた将に軍を保たせてはならず、乱れた軍勢に人を討たせてはならない。城を攻めても抜けず、邑を囲んでも崩せず、どちらも功がなければ、士の力は疲れ果てる。士の力が疲れ果てれば、将は孤り兵たちは背き、守れば固まらず、戦えば敗走する。これを老いた兵という。兵が老いれば将の威は行われず、将に威がなければ士卒は刑を軽んじ、士卒が刑を軽んじれば軍は伍を失い、軍が伍を失えば士卒は逃げ去り、士卒が逃げ去れば敵は利に乗じ、敵が利に乗じれば軍は必ず滅びる。

夾注 1

乘眾不可使伐人

底本は「乗衆」だが、この字では意が通らないので乖(そむき乱れる)の誤りと見て「乱れた軍勢」と訳した。― 訳者

15風が起こるように戦い、堤が切れるように攻める

《軍讖》曰:「良將之統軍也,恕己而治人,推惠施恩,士力日新。戰如風發,攻如河決。」故其眾可望而不可當,可下而不可勝。以身先人,故其兵為天下雄。《軍讖》曰:「軍以賞為表,以罰為裹。」賞罰明,則將威行。官人得,則士卒服。所任賢,則敵國畏。

『軍讖』にいう。「良将が軍を統べるには、自分の身に推し量って人を治め、恵みを推し恩を施すので、士の力は日ごとに新しくなる。戦いは風が起こるようにし、攻めは河の堤が切れるようにする。」だからその兵たちは、望み見ることはできても当たることはできず、低く見ることはできても勝つことはできない。自ら人に先立つので、その兵は天下の雄となる。『軍讖』にいう。「軍は賞を表とし、罰を裏とする。」賞罰が明らかであれば将の威は行われ、人に官を授けることが当を得れば士卒は服し、任じた者が賢ければ敵国は畏れる。

16士は低くしてよいが、おごらせてはならない

《軍讖》曰:「賢者所適,其前無敵。故士可下而不可驕,將可樂而不可憂,謀可深而不可疑。」士驕,則下不順。將憂,則內外不相信。謀疑,則敵國奮,以此攻伐,則致亂。夫將者,國之命也,將能制勝,則國家安定。

『軍讖』にいう。「賢者が向かう所には、その前に敵がない。だから士は低くしてよいがおごらせてはならず、将は楽しませてよいが憂えさせてはならず、謀は深くしてよいが疑わせてはならない。」士がおごれば下は従わず、将が憂えれば内と外が互いに信じず、謀を疑えば敵国が奮い立つ。これで攻め討てば乱を招く。将は国の命であって、将が勝ちをつくれるなら国家は安定する。

17将に過ちが一つあれば兵は服さない

《軍讖》曰:「將能清,能靜,能平,能整,能受諫,能聽訟,能納人,能採言,能知國俗,能圖山川,能表險難,能制軍權。」故曰:「仁賢之智,聖明之慮,負薪之言,廊廟之語,興衰之事,將所宜聞。」將者,能思士如渴,則策從焉。夫將拒諫,則英雄散;策不從,則謀士叛;善惡同,則功臣倦;專己,則下歸咎;自伐,則下少功;信讒,則眾離心;貪財,則奸不禁;內顧,則士卒淫。將有一,則眾不服。有二,則軍無式。有三,則下奔北。有四,則禍及國。

『軍讖』にいう。「将は清くあれ、静かであれ、公平であれ、整っていよ。諫めを受け入れ、訴えを聴き、人を納れ、言葉を採り、国の習わしを知り、山と川を図に描き、険しく難しい所を記し、軍の権を制しうるようであれ。」だから「仁賢の智、聖明の思慮、薪を負う者の言葉、朝廷の語らい、興りと衰えの事は、将が聞くべきものである」という。将が渇くように士を思うなら、策はそれに従う。将が諫めを拒めば英雄は散り、策に従わなければ謀士は背き、善と悪を同じに扱えば功臣は倦み、自分の考えだけを押し通せば下は咎を帰し、自ら誇れば下は功を立てなくなり、讒言を信じれば兵たちは心が離れ、財を貪れば奸を禁じられず、内に顧みれば士卒は淫れる。将にこのうち一つがあれば兵たちは服さず、二つあれば軍に法式がなく、三つあれば下は敗走し、四つあれば禍は国に及ぶ。

18将の謀は密に、兵は一つに

《軍讖》曰:「將謀欲密,士眾欲一,攻敵欲疾。」將謀密,則姦心閉。士眾一,則軍心結。攻敵疾,則備不及設。軍有此三者,則計不奪。將謀泄,則軍無勢。外窺內,則禍不制。財入營,則眾奸會。將有此三者,軍必敗。將無慮,則謀士去;將無勇,則士卒恐;將妄動,則軍不重;將遷怒,則一軍懼。

『軍讖』にいう。「将の謀は密であれ、士卒は一つであれ、敵を攻めるのは疾くあれ。」将の謀が密であれば奸なる心は閉ざされ、士卒が一つであれば軍の心は結ばれ、敵を疾く攻めれば備えを設ける間がない。軍にこの三つがあれば計を奪われない。将の謀が漏れれば軍に勢いがなく、外から内を覗かれれば禍を制せられず、財が営に入れば多くの奸が集まる。将にこの三つがあれば軍は必ず敗れる。将に思慮がなければ謀士は去り、将に勇がなければ士卒は恐れ、将がみだりに動けば軍は重みを失い、将が怒りを他に移せば軍じゅうが懼れる。

19思慮と勇、動きと怒り

《軍讖》曰:「慮也,勇也,將之所重;動也,怒也,將之所用。此四者,將之盯誡也。」

『軍讖』にいう。「思慮と勇は将が重んじるものであり、動きと怒りは将が用いるものである。この四つは将が戒めるべきところである。」

夾注 1

將之盯誡也

底本は「将之盯誡也」の盯だが、多くの版本に所(所戒・所慎)とあるので所と見て「戒めるべきところ」と訳した。― 訳者

20軍に財がなければ士は来ない

《軍讖》曰:「軍無財,士不來;軍無賞,士不往。」

『軍讖』にいう。「軍に財がなければ士は来ず、軍に賞がなければ士は赴かない。」

21香ばしい餌の下には必ず死んだ魚がいる

《軍讖》曰:「香餌之下,必有死魚;重賞之下,必有勇夫。」故禮者,士之所歸;賞者,士之所死。招其所歸,示其所死,則所求者至。故禮而後悔者,士不止;賞而後悔者,士不使。禮賞不倦,則士爭死。

『軍讖』にいう。「香ばしい餌の下には必ず死んだ魚がおり、重い賞の下には必ず勇ましい男がいる。」だから礼は士が帰するところであり、賞は士が死ぬところである。その帰するところで招き、その死ぬところを示せば、求める者がやって来る。だから礼を尽くしてから悔いれば士は留まらず、賞を与えてから悔いれば士は使われない。礼と賞に倦まなければ、士は争って死ぬ。

22少ない数で多い数に勝つのは恩

《軍讖》曰:「興師之國,務先隆恩;攻取之國,務先養民。」以寡勝眾者,恩也;以弱勝強者,民也。故良將之養士,不易于身;故能使三軍如一心,則其勝可全。

『軍讖』にいう。「兵を起こす国はまず恩を厚くすることに努め、攻め取る国はまず民を養うことに努める。」少ない数で多い数に勝つのは恩であり、弱い者で強い者に勝つのは民である。だから良将が士を養うのは自分の身を扱うのと変わらない。だから三軍を一つの心のようにすることができ、その勝ちを完きものにできる。

23千里に糧を運べば兵に飢えの色が出る

《軍讖》曰:「用兵之要,必先察敵情,視其倉庫,度其糧食,卜其強弱,察其天地,伺其空隙。」故國無軍旅之難,而運糧者,虛也;民菜色者,窮也;千里饋糧,士有飢色;樵蘇後爨,師不宿飽。夫運糧千里,無一年之食;二千里,無二年之食;三千里,無三年之食,是謂國虛。國虛,則民貧;民貧,則上下不親。敵攻其外,民盜其內,是謂必潰。

『軍讖』にいう。「兵を用いる要は、必ずまず敵の情を察することである。その倉と庫を見、その糧食を量り、その強弱を占い、その天と地を察し、その隙を窺う。」だから国に軍旅の難がないのに糧を運んでいるのは、内が空ろだからである。民が菜の色をしているのは、窮しているからである。千里に糧を運べば兵に飢えの色が出、薪を取り草を刈ってから炊くようでは、軍はいつも腹を満たせない。千里に糧を運べば一年の食がなく、二千里なら二年の食がなく、三千里なら三年の食がない。これを国が空ろだという。国が空ろになれば民は貧しく、民が貧しければ上と下は親しまない。敵が外を攻め、民が内で盗む。これを必ず潰えるという。

24上が暴虐なら下は苛だしく薄情になる

《軍讖》曰:「上行虐,則下急刻;賦重斂數,刑罰無極,民相殘賊;是謂亡國。」

『軍讖』にいう。「上が暴虐を行えば下は性急で薄情になり、租税が重く取り立てが頻りで刑罰に限りがなく、民が互いに損ない害する。これを亡びる国という。」

25盗みの糸口

《軍讖》曰:「內貪外廉,詐譽取名;竊公為恩,令上下昏;飾躬正顏,以獲高官;是謂盜端。」

『軍讖』にいう。「内では貪りながら外は清廉を装い、偽りの誉れで名を取り、公のものを盗んで自分の恩とし、上も下も目を暗まされ、身を飾り顔つきを正して高い官を得る。これを盗みの糸口という。」

26乱れの源

《軍讖》曰:「群吏朋黨,各進所親;招舉姦枉,抑挫仁賢;背公立私,同位相訕;是謂亂源。」

『軍讖』にいう。「多くの役人が朋党を結び、それぞれ自分の親しい者を進め、奸で曲がった者を引き挙げ、仁賢の者を抑えつけ、公に背いて私を立て、同じ位の者が互いに謗る。これを乱れの源という。」

27乱れの根

《軍讖》曰:「強宗聚姦,無位而尊;威而不震,葛藟相連;種德立恩,奪在位權;侵侮下民,國內諠譁,臣蔽不言;是謂亂根。」

『軍讖』にいう。「強い一族が奸なる者を集め、位もないのに尊ばれ、威を振るわなくとも葛の蔓のように互いに絡み合い、徳を植え恩を立てて位にある者の権を奪い、下の民を侵し侮って国の内が騒がしいのに、臣が覆い隠して言わない。これを乱れの根という。」

28国の奸

《軍讖》曰:「世世作姦,侵盜縣官,進退求便,委曲弄文,以危其君;是謂國姦。」

『軍讖』にいう。「代々奸なることをなして役所を侵し盗み、進むも退くも都合のよさを求め、曲がりくねった文で法を弄んでその君を危うくする。これを国の奸という。」

29役人が多く民が少なければ

《軍讖》曰:「吏多民寡,尊卑相若,強弱相虜;莫適禁禦,延及君子,國受其咎。」

『軍讖』にいう。「役人が多く民が少なく、尊いも卑しいも似たようになり、強い者と弱い者が互いに食い合うのに誰も禁じ防がず、それが君子にまで及んで、国がその咎を受ける。」

30善い者を善いといいながら用いなければ

《軍讖》曰:「善善不進,惡惡不退;賢者隱蔽,不肖在位;國受其害。」

『軍讖』にいう。「善い者を善いといいながら進めず、悪い者を悪いといいながら退けず、賢者は隠れ、不肖の者が位にある。国はその害を受ける。」

31枝と葉が強く大きくなれば

《軍讖》曰:「枝葉強大,比周居勢;卑賤陵貴,久而益大;上不忍廢,國受其敗。」

『軍讖』にいう。「枝と葉が強く大きくなって、群れ合って勢いを占め、低く賤しい者が貴い者を侮り、久しくなるほどいよいよ大きくなるのに、上はあえて廃せない。国はその敗れを受ける。」

32諂う臣が上にあれば

《軍讖》曰:「佞臣在上,一軍皆訟;引威自與,動違于眾;無進無退,苟然取容;專任自己,舉措伐功;誹謗盛德,誣述庸庸;無善無惡,皆與己同;稽留行事,命令不通;造作苛政,變古易常;君用佞人,必受禍殃。」

『軍讖』にいう。「諂う臣が上にあれば、軍じゅうが訴え争う。威を引いて自分のものとし、動けば多くの者に背き、進むこともなく退くこともなく、いい加減に取り入りだけを得ようとし、自分ひとりで引き受けて振る舞いごとに功を誇り、盛んな徳を誹り、凡庸な者を言い立てて貶め、善も悪もなくすべて自分の意に合わせさせ、事を引き延ばして命令が通らず、苛だしい政をつくって古きを変え常を改める。君が諂う人を用いれば、必ず禍と災いを受ける。」

33君が異なる言葉を察すればその芽が見える

《軍讖》曰:「姦雄相稱,障蔽主明;毀譽並興,壅塞主聰;各阿所私,令主失忠。」故主察異言,乃觀其萌。主聘儒賢,姦雄乃遯。主任舊齒,萬事乃理。主聘巖穴,士乃得實。謀及負薪,功乃可述。不失人心,德乃洋益。

『軍讖』にいう。「奸なる雄たちが互いに称え合って君の明を覆い隠し、謗りと誉れがともに起こって君の耳を塞ぎ、それぞれ自分の身内に阿って、君に忠を失わせる。」だから君が異なる言葉を察すれば、その芽が見える。君が儒の賢者を招けば、奸なる雄は逃げ去る。君が古い年長者を用いれば、万事は治まる。君が岩穴の隠者を招けば、士は実を得る。謀が薪を負う者にまで及べば、功は述べるに足る。人の心を失わなければ、徳はいよいよ満ちあふれる。