尉繚子 — 武議尉繚子 武議
1軍は暴虐を討ち不義を禁じるもの
凡兵不攻無過之城,不殺無罪之人。夫殺人之父兄,利人之貨財,臣妾人之子女,此皆盜也。故兵者,所以誅暴亂、禁不義也。兵之所加者,農不離其田業,賈不離其肆宅,士大夫不離其官府,由其武議在於一人,故兵不血刃,而天下親焉。
軍は過ちのない城を攻めず、罪のない人を殺さない。人の父や兄を殺し、人の財貨をむさぼり、人の子女を奴婢とするのは、みな盗みである。だから軍とは、暴虐と乱れを討ち、不義を禁じるためのものである。軍が向かった先では、農民はその田の仕事を離れず、商人はその店を離れず、士大夫はその役所を離れない。武の議がただ一人のもとにあるからであり、それゆえ刃に血を塗らずして天下が親しむのである。
2万乗は農と戦、千乗は救援と守り、百乗は養うこと
萬乘農戰,千乘救守,百乘事養。農戰不外索權,救守不外索助,事養不外索資。夫出不足戰、入不足守者,治之以市。市者,所以給戰守也。萬乘無千乘之助,必有百乘之市。
万乗の国は農と戦を行い、千乗の国は救援と守りを行い、百乗の国は養うことを事とする。農と戦は外に権勢を求めず、救援と守りは外に助けを求めず、養うことは外に資本を求めない。出て戦うには足りず、入って守るにも足りないときは、市によって治める。市とは、戦と守りをまかなうものである。万乗の国に千乗の助けがなければ、必ず百乗の市がなければならない。
3刑は上まで及び、賞は下まで流れる
凡誅賞者,所以明武也。殺一人而三軍震者,殺之;賞一人而萬人喜者,賞之。殺之貴大,賞之貴小。當殺而雖貴重,必殺之,是刑上究也;賞及牛童馬圉者,是賞下流也。夫能刑上究、賞下流,此將之武也。故人主重將。
討つことと賞することは、武を明らかにするためのものである。一人を殺して三軍が震えるならその者を殺し、一人に賞して万人が喜ぶならその者に賞する。殺すには身分の高い者を重んじ、賞するには身分の低い者を重んじる。殺すべき者は、たとえ尊く重い身であっても必ず殺す。これが刑が上まで及びきるということである。賞が牛飼いの童や馬飼いにまで届くのが、賞が下まで流れるということである。刑を上まで及ばせ、賞を下まで流せるのが、将の武である。だから君主は将を重んじる。
4勝つ軍は水に似ている
勝兵似水。夫水,至柔弱者也。然所觸,丘陵必為之崩;無異也,性專而觸誠也。今以莫邪之利,犀兕之堅,三軍之眾,有所奇正,則天下莫當其戰矣。
勝つ軍は水に似ている。水はきわめて柔らかく弱いものだが、触れたところでは丘や陵も必ず崩れる。ほかに理由はない。性質が一つに向かい、触れ方が真っすぐだからである。いま莫邪の剣の鋭さと、犀や兕の革の堅さと、三軍の数とをもって、奇と正の構えを置けば、天下にその戦いを受け止められる者はいない。
5呉起は陣で畦を平らにせず木の枝で霜を防いだ
吳起與秦戰,舍不平隴畝,樸樕蓋之,以蔽霜露。如此何也?不自高人故也。乞人之死不索尊,竭人之力不責禮。故古者,甲冑之士不拜,示人無以煩也。夫煩人而欲乞其死、竭其力,自古至今,未嘗聞矣。將,受命之日,忘其家;張軍宿野,忘其親;援枹而鼓,忘其身。吳起臨戰,左右進劍。起曰:「將專主旗鼓爾。臨難決疑,揮兵指刃,此將事也。一劍之任,非將事也。」
呉起が秦と戦ったとき、宿るところの畦を平らにせず、小さな木の枝で覆って霜と露を防いだ。こうしたのはなぜか。自分を人より高く置かないためである。人に死を乞うのに尊ばれることを求めず、人の力を尽くさせるのに礼を責めない。だから昔は、甲と冑をつけた士は拝礼しなかった。人に煩わしいことを課さないと示したのである。人を煩わせておいてその死を乞い、その力を尽くさせた例は、昔から今まで聞いたことがない。将は、命を受ける日にその家を忘れ、軍を張って野に宿ればその親を忘れ、ばちを取って鼓を打てばその身を忘れる。呉起が戦いに臨むと、左右の者が剣を差し出した。呉起は言った。「将はもっぱら旗と鼓をつかさどるだけだ。難に臨んで疑いを決し、兵を指揮して刃の向きを示すのが将の仕事である。剣一本の務めは将の仕事ではない。」
6命令なく敵の首二つを取ってきた兵を斬った呉起
吳起與秦戰,未合,一夫不勝其勇,前獲雙首而還。吳起立命斬之。軍吏諫曰:「此材士也,不可斬!」起曰:「材士則是矣,非吾令也。」斬之。
呉起が秦と戦ったとき、まだ両軍が組み合わないうちに、一人の男が自分の勇に耐えきれず、前に出て敵の首二つを取って戻ってきた。呉起はただちに命じてこれを斬らせた。軍吏が諫めて言った。「これは才のある士です。斬ってはなりません。」呉起は言った。「才のある士ではあるが、わたしの命令ではない。」そして斬った。