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武隈の松
奥の細道(奥州へ向かう細道の記) 全一巻 「月日は百代の過客であり、行き交う年もまた旅人です」 — 芭蕉が四十六歳で江戸を離れ、奥州と北陸を五か月かけて歩いた紀行文。夏草に武士たちの夢を見、岩にしみ入る蝉の声を聞き、一つ屋根の下に眠る遊女を萩と月に見立てる。散文が終わるところごとに俳句が一句置かれる。法顕・玄奘・慧超の求法記と並ぶ、この書斎のもう一つの道である。
1武隈の松 — 二木のままに
武隈の松にこそ目さむる心地すれ根は土際より二木にわかれて昔のすがたうしなはずとしらる先能因法しおもひ出往昔陸奧守にて下りし人此木を伐て名とり川の橋杭にせられたるなどあればにや松は此たび跡もなしとは詠みたり代々あるは伐りあるひは植づきなどせしと聞くに今はた千歲のかたちとゞのほひてめでたき松のけしきになん侍し 武隈の松みや申せ遲さくら擧白
武隈の松に至って、ようやく目が覚める思いがしました。根は土際から二木に分かれて、昔の姿を失っていないことがわかります。
まず能因法師が思い出されます。昔、陸奥守として下った人がこの木を伐って名取川の橋杭にされたということがあったからでしょうか、「松はこのたび跡もなし」と詠んでいます。代々、ある人は伐り、ある人は植え継いだと聞いていますが、今はまた千年の姿を整えて、見事な松の景色になっていました。
武隈の松を見せて差し上げなさい 遅桜よ — 挙白
夾注 3
木一本本トアリ
「二木」の「木」は異本に「本」とあります。
一本し師トアリ一本づトアリ
異本には「し」が「師」とあり、また異本には「づ」とあります。
一本ひナシ
異本には「ひ」がありません。
2桜より松
とせんべちしたりければ 櫻より松は二木を三月こし
と、餞別してくれたので。
桜より / 松は二木を三月越しに
夾注 1
一本擧白といふものゝせんへち云々トアリ
異本には「挙白という者の餞別云々」とあります。