南天竺国南天竺國
1龍樹菩薩の寺と故郷を思う歌
即從中天國南行三箇餘月。至南天竺國王所住。王有八百頭象。境土極寬。南至南海。東至東海。西至西海。北至中天。西天東天等國接界。衣著飲食人風。與中天相似。唯言音稍別。土地熱於中天。土地所出。㲲布象水牛黃牛。亦少有羊。無駝騾驢等。有稻田。無黍粟等。至於綿絹之屬。五天總無。王及領首百姓等。極敬三寶足寺足僧。大小乘俱行。於彼山中。有一大寺。是龍樹菩薩便夜叉神造。非人所作。竝鑿山為柱。三重作樓。四面方圓三百餘步。龍樹在日。寺有三千僧。獨供養以十五石米。每日供三千僧。其米不竭。取却還生。元不減少。然今此寺廢。無僧也。龍樹壽年七百。方始亡也。于時在南天路。為言曰。五言月夜□□路。浮雲颯颯歸。減書參去便。風急不聽迴。我國天岸北。他邦地角西。日南無有雁。誰為向林飛。
すなわち中天竺国から南へ三か月あまり行って、南天竺国の王が住む所に至った。王は象八百頭を持っている。領土はきわめて広く、南は南海に、東は東海に、西は西海に至り、北は中天竺・西天竺・東天竺などの国と境を接している。
衣装と食べ物と風俗は中天竺と似ているが、ただ言葉が少し異なる。土地は中天竺より暑い。土地から出るものは毛織りの布と象と水牛と黄牛で、羊も少しいるが、駱駝や騾馬や驢馬などはいない。稲田はあるが、黍や粟などはない。木綿や絹の類は五天竺のどこにもない。
王と首領と民たちは三宝をこの上なく敬い、寺も多く僧も多く、大乗と小乗がともに行われている。
その山の中に大きな寺が一つあり、龍樹菩薩が夜叉神を使って造ったもので、人が造ったものではない。山を掘って柱とし、三階の楼を建てたが、四面の周りが三百歩あまりである。龍樹が生きていたころ、寺には僧三千人がいたが、米十五石だけで毎日三千人の僧を供養しても、その米が尽きなかった。汲み取ればまた生じて、もとのまま減らなかった。しかし今この寺は廃れて僧がいない。龍樹は年七百にしてはじめて世を去った。
そのとき南天竺の道で五言の詩に詠んだ。
月の明るい夜に□□道を眺めれば 浮かぶ雲はさらさらと流れ去っていく。 手紙を封じて行く使いに託そうとするが 風が急で振り返ってもくれない。 わが国は天の果ての北にあり 人の地は大地の隅の西にある。 日南には雁がいないのだから 誰が鶏林(林)へ向かって飛んでくれようか。
夾注 1
林 — 鶏林、すなわち著者の故郷である。― 訳者